「ねぇ、合コン行かない?」と、戸塚ネネがクラスメイトの、佐倉愛に声をかけた。

「合コン」と少し、驚く佐倉。



「あの男子校の、手塚が来るんだよ。」そそのかすネネ。

「手塚?誰それ?」佐倉は、恋愛には、とんと、うとい。ちなみに、佐倉たちは、女子校だった。



「えっ知らないの?本当に、お子様ねえ」戸塚は、あきれていた。

「お願い、このチャンスで、手塚君と仲良くなりたいの」両手を合わせて、頼み込む戸塚。



「面倒臭さ、なんで、蒸し臭い男子と、顔をあわせて、仲良くしてやるの?」

「この通り、もし、願いをきいてくれたら、なんでも、協力するからさ。」



しばしの時が流れた。



佐倉は、ため息をつき、

「わかった、少しの間だけね」と答えた。



「さすが、佐倉、ありがとう」そう言って、戸塚は、小躍りした。



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「えっ4人なの」カラオケBOX「タイムゾーン」についた、佐倉は、言った。

「察してよ」戸塚が、佐倉にささやいた。



男子の1人は、手塚、そして、もう1人は、橋田と名乗った。確かに、手塚は、イケメンの顔つきをしている。

一方の橋田は、何やら、落ち着きが、ない。



「オマエら、名門女子校だって」手塚は、ぶっきらぼうに、言い放った。

「何よこいつ、いきなり」と佐倉は、感じ、思わず、不満をぶちまける。

「だったら、どうだというの?」

「いやな、さぞや、カワイイ子が、来るんだろうなとさ。」



「別に、あんたみたいな奴に、気に入られようとは、私も思ってないから。」佐倉は、戦闘状態に入ったようだ。

手塚が、佐倉の裾を、引っ張って、目が懇願している。



「歌でも、歌おうぜ、俺一番」橋田は、空気を読み、そう言った。



その歌は、新垣結衣がドラマに出ていた「恋」だった。

「ただ、腹をすかせて、君のもとに帰るんだ」と割と上手い。



「恋せずにいられないんだ」とのところで、佐倉は、席を立った。



「どうした、帰るのか?」と手塚。

「あんたの顔見ていたら、ムカつく」ズバットものいう佐倉。



「帰るのは、オマエの勝手だが、友達を1人にするのか?」



よく見たら、戸塚ネネは、今にも、泣きそうな顔を、しており、ハッと佐倉は、我に帰った。

「なによ、コイツ、意外にやさしいじゃない」と佐倉は、心の中で、つぶやいた。




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「私たちも、歌おうよ」佐倉は、ネネに言った。



歌は、さくらんぼだった。

ノリがいい曲である。ようやくネネに笑顔が、出てきた。



「さあ、イケメンさん、トリは、何歌うの?」佐倉は、問いかけた。



「夢ならば、どれほど、よかったでしょう」歌は、檸檬。



あまりの声の良さに、戸塚と橋田は、手拍子をしてきた。



「暗いな」ポツンとつぶやいた佐倉。



すると、戸塚が、佐倉の手を取り、



「今でも、貴方は、私の光」と耳元でささやいた。



これには、驚いた佐倉。「何考えているの?」



「佐倉」呼びかけたのは、戸塚。気が気でない。



「佐倉、貴方は、私を応援してくれるよね。」



これは、女子が、よく使うライバルを潰す言葉。



「もちのロンよ」←どっから、こんな言葉出てくる。



「ここで、イケメンに惚れたら、私の負けだ」と訳がわからない思いを佐倉は、胸に抱いていた。



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4人は、カラオケBOXを出て、海辺に来ていた。



「オマエら、泳げないだろう。」と突然、イケメンが、2人に問いかけた。



「バカに、するんじゃないわよ。2人とも水泳部現役なんだから」佐倉は、言った。



月が、周りを照らして、明るかった。風は、無く、遠くで汽笛が鳴った。



「ビーチバレーやろうぜ?」橋田は、三人に声をかけて、網が張ってあるその場所を、指差した。



「おし、賛成、この強気な女を、黙らせてやる」



「やばい」内心、佐倉は思った。まったくというほど、できない。



くじを引いて、男女ペアとなる、試合になった。



なんと、イケメンと佐倉が、ペアになった。居心地が悪い佐倉だった。



前衛に佐倉、後衛にイケメンが、スタンバイした。



「いいか、オマエは、じっとしてろ」とイケメンが言った。



言われなくてもと佐倉は、思った。



試合は、意外にも、イケメンが、1人で、2人の選手と対等に、張り合っている。



「わたし、彼のこと、誤解していたかも」と佐倉は思った。



「狙い撃ち」と言って、橋田は桜の方へボールを打ってきた。



「佐倉」と言って、そこへ追いつこうとしたら、佐倉は、彼の方へトスした。



「まかせろ」一番高くジャンプして、敵陣へボールを、打ち返した。



「やるじゃないか」手塚は、そう言った。



いきなり。その言葉。反則じゃない?



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いつのまにか、佐倉の姿が、消えた。三人は、それぞれに、佐倉を探しに行った。



佐倉は、泣いていた。友達を裏切ったことと、彼に乱暴な口を吐いたことを、悔やんで。



「ヒャ」と佐倉は、言った。水をかけられたことで。



「冷たいだろう、水」と手塚は、言った。



そばに、ため池があった。佐倉は、やり返した。



お互いに、びしょ濡れになる程、パシャパシャ水を掛け合った。



「透けてるぜ」と手塚。

あわてて、胸を手で隠す、佐倉。



「嘘だ」



佐倉は、笑った。彼とこうやって、いることが、心地よかった。



手塚は、近づいてくる。佐倉は、心に決めた。



顔を上げて、そっと目を閉じた。



夢ならば、覚めてほしい。しかし…



それは、優しく、佐倉のくちびるにふれて、はなれた。



「すまんな、ファーストキスがオレで」



「わたし、今、最高のファーストキスをもらった」



佐倉は、そう言いながら、手塚を抱きしめていた。



月は、雲に隠れていた。2人は、しばらくの間、抱き合っていて、離れた。



「オマエはカワイイ」

「今頃になって、口説くの?」



「いろいろあったが、オマエに出会えてよかった。」

「あなた、しゃべりすぎよ、もう、私の気持ち、わかるでしょ」



月は、満面の笑みを浮かべていた。