「運命のひと?」
 彼は静かにうなずきました。
「子どものころから、ときどき夢に見るんだ。ぼんやりとだけど、同じ女のひとのことを」
「女のひと……」
 わたしの心臓が大きく高鳴ります。
「そのひとは、肩まで茶色い髪を伸ばしてて、身長はちょっぴり小柄で、目がくっきりと大きくて、目の色はちょっぴり茶色がかってて」
 彼の顔がしだいにわたしのほうへ近づいてきます。まるで私の心の内をのぞきこむかのように。
「それって――」
 鏡を見なくても顔が真っ赤になっているのが、自分でもよく分かりました。
「わたし!?」
 単なるうぬぼれだと笑われてしまうかもしれません。だけど、その特徴は、ぴったりとわたしに当てはまっていたのです。
「そのひとは、いつも僕のそばにいてくれるんだ。どんなときもね。優しく、あたたかく笑いかけてくれて……末来が僕にとって、そんな存在になってくれたら嬉しいな」
「片桐くん……」
 緊張のあまり、うまく言葉がつむげなくなっているわたしに、片桐くんは
「なんてね。なにキザな口説き文句言ってんだ、ってひいちゃったかな?」
 と、ほほえみかけました。
 わたしは大きく首を横に振って、
「ううん、うれしい。片桐くんにそう言ってもらえて、とってもうれしいよ!」
 と、はっきり答えました。
 たとえ、口説き文句だとしてもかまわない。
 片桐くんにとって自分が特別な存在であることが、とっても誇らしくて幸せだったんです。
「きっと、わたしにとっても片桐くんは運命のひとなんだと思う。わたしも、どんなときも片桐くんといっしょにいたい!」
 心の底からあふれ出てくる自分の想いを彼に伝えると、
「ありがとう、末来……」
 彼は、ぎゅっとわたしを抱きしめました。
 両腕から伝わってくるぬくもりが、わたしの心の奥まで伝わってきました。
 高い背たけ、少しくせのある栗色の髪、まなざしは大人っぽいのに、ほほえむととたんに少年っぽくなる横顔。
 片桐くんのことが大好き。わたしは彼の運命のひとでありたい。ずっといっしょに歩んでいきたい。
 わたしの心はそんな想いでいっぱいでした。まるでいつまでも終わらない幸せな夢のなかにいるようでした。

 だから、まさかあんなことが起きるなんて、まったく思ってもいなかったのです。