今からわたしがお話しするのは大学二年生の秋のことです。
「つき合ってくれないかな……?」
 カフェのバイトが終わったあと、わたしは、片桐くんから突然告白されました。
 片桐 実樹人くんは、わたしと同じ大学の同級生。バイトではわたしのほうが先輩だけど、片桐くんは仕事の飲みこみが早くて、誰にでも明るく接することができて、今や誰からも頼られる存在として知られてて。 
 だから、わたしも、気づけば自然と彼に惹かれていたんです。
「喜んで」
 と、返事をしたとき、彼の緊張した面持ちが、ふっとほどけて、にわかに少年っぼい笑顔になったのを今もはっきりと覚えています。

「ゴメン、片桐くん! 待った?」
 デートのとき、ときどきわたしが遅刻しそうになることもありましたが、
「ううん、大丈夫だよ。行こう」
 彼はいつもイヤな顔ひとつしませんでした。
 いつも笑顔で、わたしと手をつないで、いろいろなところに遊びに行きました。
「この店どう? 新しく見つけたんだ」
「その服、かわいいね。とても未来に似合ってる」
 彼は、いつも優しくて、わたしと会うたびにとても楽しそうな表情を浮かべて、ほんとうにわたしにはもったいないくらいのひとでした。
 そのせいか、ときどき友だちからは、
「未来、今すぐに片桐くんと結婚したいんじゃない?」
 なんて、からかわれました。
「まだ、そんなの……考えたことないよ」
「そんなこと言って、赤くなってるじゃん。カワイイ~」
「もし、将来は――そうなれたらいいな、って思うけど……」
「でしょー? それに、片桐くんちのお父さんって警視庁のエラいひとなんだって。家、すっごくお金持ちらしいよ」
「そうなの?」
 知らなかった。片桐くん、わたしには普段そんな話しないし……。
「ひょっとしたら、片桐くんも警察官目指してるんじゃない? 末来、エリート警察官のお嫁さんなんていいじゃん。頼もしいし、セレブ生活できるかもよ?」
「そんな――」
 裕福な暮らしなんて別に興味ない。わたしはただ、これからも片桐くんのそばにいたいだけ。
 いつも優しくて、ちょっぴりはにかみ屋な彼と、これからもいっしょに歩んでいければいい。
 ただ、そんなふうに思っていました。