「それなら今度の祭りに共に行くか? ちょうど警邏の依頼が来たところでな。今年は巫女の数が足りないとかで、心当たりがあるなら紹介してくれと頼まれている」
「今度の祭りと言いますと、『雪消の変』で命を落とした死者の慰霊祭を兼ねた『秋祭り』のことでしょうか?」
毎年秋になると『雪消の変』で犠牲になった民や陰陽師、巫女の魂を弔う鎮魂の祭り——秋祭りが国の各地で開催される。
国を守って散った者たちの栄誉を讃え、あやかしたちの妖害で命を落とした御霊を鎮めるために、街や村の神社に赤提灯と櫓が並び、祭囃子が一晩中鳴り響くのだ。
「ああ。この秋祭りに乗じて低級から中級のあやかしが紛れ込むことがあってな。それらが人に害をなす前に俺たち陰陽師と巫女が討伐することになっている。俺の場合は巫女の連れ添いは不要だが、お前と婚姻を結んだことを知った同僚たちが会わせろと毎日煩くてな。ちょうど巫女も不足しているから、この機会に巫女不足の解消とお前を会わせる目的の両方を叶えてしまいたい。無論、合間に参拝する時間も設ける」
つまり秋祭りの警邏の仕事に同行しろということだろう。独り立ちして初めての巫女の仕事に、「同行いたします」と迷わず答えたのだった。
「先に言っておくが、俺の足だけは引っ張るなよ。あやかしを前に怖気づいても助けないからな」
「勿論です。旦那様の足を引っ張らぬように、巫女として妻としての務めを果たします。これも契約ですから」
「……妻としての役目までは求めておらん」
そして浅葱たちと務めに向かう怜桜を見送った後は、柊詩も式神たちと掃除や洗濯をする。嫁いできた当初は浅葱に止められたが、手を動かしていた方が気が紛れることもあった。
(秋祭りであやかし討伐をされるということは、護符もたくさんあった方がいいかしら……)
ひと通りの家事を終えた柊詩は自室に戻ると、日課としている護符書きを行う。
嫁いでからというもの、特に趣味がない柊詩は連日護符書きか陰陽師や巫女に関する書物を読んで過ごしていた。
本来であれば陰陽師と結婚した巫女は、夫である陰陽師の仕事に同行して結界や術式の展開などを手伝うが、歴代随一の陰陽師である怜桜に「不要」ときっぱり断られてからというもの、柊詩は留守番する日々が続いていたのだった。
一応、急に呼び出された時に備えて外出はなるべく控えて待機しているつもりだったが、今のところ怜桜から呼ばれたことは一度も無かった。
柊詩を「菫花の陣」の強化日までの一時的な妻とするというのは本当らしい。
(秋祭り……そういえばここ数年は全然行ってない……)
子供の頃は養父の小倉に手を引かれて何度か行ったが、巫女として大神社で修行を始めてからは足が遠退いていた。笹丘たちに仕事を押し付けられていたというのもあるが、正直なところ秋祭りに行くと亡き両親を思い出して心が苦しくなるからであった。
あの「雪消の変」の時に両親に何があったのか小倉から聞かされてからというもの、両親と向き合うのが怖かった。そのことを怜桜に話して、嫌われてしまうのも……。
そこまで考えたところで、柊詩はハッとして護符を書いていた筆を取り落としてしまったのだった。
(どうして旦那様のことを考えているの? だって旦那様とは一時的な夫婦関係なのに……)
嫁いでからというもの、気がつけば怜桜のことばかり考えている。
怜桜はいま何をしているのか、怪我はしていないか、食事をしっかり摂っているか。
こんなことは契約結婚の条件には入っていなかった。
自分は「菫花の陣」を展開する怜桜にとって、都合が良いだけの売れ残りの巫女。この利害一致の夫婦関係も「菫花の陣」の強化が終われば解消してしまう仲。解消した後は、柊詩にとっての怜桜は一人前の巫女になるのを手助けしてくれただけの恩人になる。
任務で顔を合わせることはあっても、それ以上の関係になることはない。
信頼や信用が生まれても双方が陰陽師と巫女でいる限り、愛や恋に発展することはないだろう。
陰陽師と巫女の身勝手な愛がどんな結果を及ぼしたのか、柊詩は知っているのだから——。
(今は秋祭りに向けて準備をしないと)
筆を持ち直すと筆先に墨を付けて、またしても護符を書き始める。
そして秋祭りの日はあっという間に訪れたのだった。
◆◆◆
「今度の祭りと言いますと、『雪消の変』で命を落とした死者の慰霊祭を兼ねた『秋祭り』のことでしょうか?」
毎年秋になると『雪消の変』で犠牲になった民や陰陽師、巫女の魂を弔う鎮魂の祭り——秋祭りが国の各地で開催される。
国を守って散った者たちの栄誉を讃え、あやかしたちの妖害で命を落とした御霊を鎮めるために、街や村の神社に赤提灯と櫓が並び、祭囃子が一晩中鳴り響くのだ。
「ああ。この秋祭りに乗じて低級から中級のあやかしが紛れ込むことがあってな。それらが人に害をなす前に俺たち陰陽師と巫女が討伐することになっている。俺の場合は巫女の連れ添いは不要だが、お前と婚姻を結んだことを知った同僚たちが会わせろと毎日煩くてな。ちょうど巫女も不足しているから、この機会に巫女不足の解消とお前を会わせる目的の両方を叶えてしまいたい。無論、合間に参拝する時間も設ける」
つまり秋祭りの警邏の仕事に同行しろということだろう。独り立ちして初めての巫女の仕事に、「同行いたします」と迷わず答えたのだった。
「先に言っておくが、俺の足だけは引っ張るなよ。あやかしを前に怖気づいても助けないからな」
「勿論です。旦那様の足を引っ張らぬように、巫女として妻としての務めを果たします。これも契約ですから」
「……妻としての役目までは求めておらん」
そして浅葱たちと務めに向かう怜桜を見送った後は、柊詩も式神たちと掃除や洗濯をする。嫁いできた当初は浅葱に止められたが、手を動かしていた方が気が紛れることもあった。
(秋祭りであやかし討伐をされるということは、護符もたくさんあった方がいいかしら……)
ひと通りの家事を終えた柊詩は自室に戻ると、日課としている護符書きを行う。
嫁いでからというもの、特に趣味がない柊詩は連日護符書きか陰陽師や巫女に関する書物を読んで過ごしていた。
本来であれば陰陽師と結婚した巫女は、夫である陰陽師の仕事に同行して結界や術式の展開などを手伝うが、歴代随一の陰陽師である怜桜に「不要」ときっぱり断られてからというもの、柊詩は留守番する日々が続いていたのだった。
一応、急に呼び出された時に備えて外出はなるべく控えて待機しているつもりだったが、今のところ怜桜から呼ばれたことは一度も無かった。
柊詩を「菫花の陣」の強化日までの一時的な妻とするというのは本当らしい。
(秋祭り……そういえばここ数年は全然行ってない……)
子供の頃は養父の小倉に手を引かれて何度か行ったが、巫女として大神社で修行を始めてからは足が遠退いていた。笹丘たちに仕事を押し付けられていたというのもあるが、正直なところ秋祭りに行くと亡き両親を思い出して心が苦しくなるからであった。
あの「雪消の変」の時に両親に何があったのか小倉から聞かされてからというもの、両親と向き合うのが怖かった。そのことを怜桜に話して、嫌われてしまうのも……。
そこまで考えたところで、柊詩はハッとして護符を書いていた筆を取り落としてしまったのだった。
(どうして旦那様のことを考えているの? だって旦那様とは一時的な夫婦関係なのに……)
嫁いでからというもの、気がつけば怜桜のことばかり考えている。
怜桜はいま何をしているのか、怪我はしていないか、食事をしっかり摂っているか。
こんなことは契約結婚の条件には入っていなかった。
自分は「菫花の陣」を展開する怜桜にとって、都合が良いだけの売れ残りの巫女。この利害一致の夫婦関係も「菫花の陣」の強化が終われば解消してしまう仲。解消した後は、柊詩にとっての怜桜は一人前の巫女になるのを手助けしてくれただけの恩人になる。
任務で顔を合わせることはあっても、それ以上の関係になることはない。
信頼や信用が生まれても双方が陰陽師と巫女でいる限り、愛や恋に発展することはないだろう。
陰陽師と巫女の身勝手な愛がどんな結果を及ぼしたのか、柊詩は知っているのだから——。
(今は秋祭りに向けて準備をしないと)
筆を持ち直すと筆先に墨を付けて、またしても護符を書き始める。
そして秋祭りの日はあっという間に訪れたのだった。
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