「其方らは巫女としての務めを果たすどころか、この方に失礼な口を利きおって! 修練が足りておらん!」
「お待ち下さい。私たちは柊詩さんに指導していただけですわ。そちらの方が割り込んできて勘違いをされていただけで……」
「この方は小倉への客人だ。この国の『菫花の陣』を託されている貴人にして、陰陽師としても名高い天華殿である」
「『菫花の陣』を任された天華家のお方っ……!? ということは、あ、貴方様は、天華怜桜様ですか?」
「ようやく気付いたか。やかましい巫女どもが」
怜桜が不敵な笑みを浮かべた途端に笹丘が脱力したように倒れて檜葉に支えられる。そんな二人を叱責する大宮司の声に気を取られていると、「来い」と怜桜に促されたのだった。
左袖を腕に抱えつつ後ろに続いた柊詩だったが、大神社の建物から出た途端に「もういいぞ」と正面を向いたままの怜桜に声を掛けられる。
「ここまで来れば逃がせるだろう。その左袖に隠しているモノを出したらどうだ」
その言葉にハッとした柊詩だったが、それよりも先に左袖から顔を出したのはまだ幼い狐のあやかしであった。
ふわふわの雪色の毛を揺らして不思議そうに鳴いた子狐を柊詩は「しーっ!」と静かにさせたが、その間に怜桜が子狐の背中を摘まんでしまう。
「なんだ。ずっとお前からあやかしの気配がすると思ったが子狐も子狐じゃないか。てっきりもっと力の弱い低級あやかしかと思ったぞ」
ジタバタと暴れながら口から蝋燭ほどの少量の炎を吐き出して威嚇する子狐だったが、柊詩の腕の中に返されると「クゥ~ン……」と大人しくなる。
「私が隠していると、気付いていたのですか?」
「あの巫女どもに何を言われても、頑なにその場から動かなかっただろう。動けない理由があるのかと思ってな」
「……この子はあの部屋に迷い込んでしまったみたいなのです。人目を避けて逃がそうとしたのですが、なかなか機会が無くて……そこで掃除する体で逃がせないかと考えたのです」
本来なら特級あやかしにもなり得る狐のあやかしだが、この子狐は妖力が弱いようで、大神社の結界をすり抜けて斎庭に迷い込んでしまったらしい。
部屋に溜まる穢れの中で震えていたのを見つけて保護したもののすっかり懐かれてしまったようで、柊詩の袖の中に潜り込むまでになったのだった。
「まだ親狐から離れる時期じゃなさそうだな。はぐれて心細かったところで声を掛けたお前に懐いたのかもしれん。せっかくだからそのまま式神にでもしたらどうだ?」
「私はまだ半人前です。独り立ちするにも婚約者となる陰陽師がいませんし、大宮司様や大巫女様からの許しも得ておりません」
巫女も陰陽師と同じであやかしや神と契約して主従の関係を結べるが、それも大宮司や大巫女が独り立ちを認めて一人前の巫女になってから。
十代半ばから修行を始めてだいたい十六歳前後で婚約者となる陰陽師を見つけて独り立ちを認められるが、十八になっても未だに婚約者すらいない半人前の柊詩は、式神を持つことさえ許されなかった。
すると怜桜は「なんだ。そんなことか」と、大したことないというようにせせら笑ったのだった。
「お待ち下さい。私たちは柊詩さんに指導していただけですわ。そちらの方が割り込んできて勘違いをされていただけで……」
「この方は小倉への客人だ。この国の『菫花の陣』を託されている貴人にして、陰陽師としても名高い天華殿である」
「『菫花の陣』を任された天華家のお方っ……!? ということは、あ、貴方様は、天華怜桜様ですか?」
「ようやく気付いたか。やかましい巫女どもが」
怜桜が不敵な笑みを浮かべた途端に笹丘が脱力したように倒れて檜葉に支えられる。そんな二人を叱責する大宮司の声に気を取られていると、「来い」と怜桜に促されたのだった。
左袖を腕に抱えつつ後ろに続いた柊詩だったが、大神社の建物から出た途端に「もういいぞ」と正面を向いたままの怜桜に声を掛けられる。
「ここまで来れば逃がせるだろう。その左袖に隠しているモノを出したらどうだ」
その言葉にハッとした柊詩だったが、それよりも先に左袖から顔を出したのはまだ幼い狐のあやかしであった。
ふわふわの雪色の毛を揺らして不思議そうに鳴いた子狐を柊詩は「しーっ!」と静かにさせたが、その間に怜桜が子狐の背中を摘まんでしまう。
「なんだ。ずっとお前からあやかしの気配がすると思ったが子狐も子狐じゃないか。てっきりもっと力の弱い低級あやかしかと思ったぞ」
ジタバタと暴れながら口から蝋燭ほどの少量の炎を吐き出して威嚇する子狐だったが、柊詩の腕の中に返されると「クゥ~ン……」と大人しくなる。
「私が隠していると、気付いていたのですか?」
「あの巫女どもに何を言われても、頑なにその場から動かなかっただろう。動けない理由があるのかと思ってな」
「……この子はあの部屋に迷い込んでしまったみたいなのです。人目を避けて逃がそうとしたのですが、なかなか機会が無くて……そこで掃除する体で逃がせないかと考えたのです」
本来なら特級あやかしにもなり得る狐のあやかしだが、この子狐は妖力が弱いようで、大神社の結界をすり抜けて斎庭に迷い込んでしまったらしい。
部屋に溜まる穢れの中で震えていたのを見つけて保護したもののすっかり懐かれてしまったようで、柊詩の袖の中に潜り込むまでになったのだった。
「まだ親狐から離れる時期じゃなさそうだな。はぐれて心細かったところで声を掛けたお前に懐いたのかもしれん。せっかくだからそのまま式神にでもしたらどうだ?」
「私はまだ半人前です。独り立ちするにも婚約者となる陰陽師がいませんし、大宮司様や大巫女様からの許しも得ておりません」
巫女も陰陽師と同じであやかしや神と契約して主従の関係を結べるが、それも大宮司や大巫女が独り立ちを認めて一人前の巫女になってから。
十代半ばから修行を始めてだいたい十六歳前後で婚約者となる陰陽師を見つけて独り立ちを認められるが、十八になっても未だに婚約者すらいない半人前の柊詩は、式神を持つことさえ許されなかった。
すると怜桜は「なんだ。そんなことか」と、大したことないというようにせせら笑ったのだった。



