あやかしを鎮める契約夫婦ですが、恋だけは禁止です〜陰陽師の契約夫と契る3つの約束事〜

 四方を海に囲まれた風光明媚な国・皇神陽和国(すめがみようわこく)
 四つの季節が織りなす豊かな自然と食物、長年の鎖国の中で息づいた他に類を見ない文化と芸術が特徴的な国ではあったが、近年外の国からもたらされた新たな技術によって、独自の生活を守り続けてきたこの国をより発展させて、列強国へと押し上げたのだった。
 一見平和そうな国ではあるが、実際のところ人間が暮らす人の世とあやかしが蔓延るあやかしの世は、大結界という名の薄皮一枚で隔てられており、遥かな昔より緊張状態が続いていた。
 神代の時代から各地であやかしが人に被害を及ぼす「妖害」が頻発し、それによって多くの陰陽師や巫女が命を落としてきた。
 そして長い研究の末、平安の世でとある高名な陰陽師が一つの答えと強力な術を導き出した。
 あやかしから人を守る最も強力な結界術である「菫花(きんか)(じん)」。
 その時代で最強とされる陰陽師と巫女が正式な夫婦として「菫花の術」を使うことで、人々を守る術式が完成する。
 しかし陰陽術の中でも禁術に等しいことから代償は重く、夫婦が互いに恋愛感情を抱いた瞬間に霊力が暴走してしまう。
 大結界は崩壊して、やがて全国各地を巻き込む災厄へと変わるのだった。
 
 今から十三年前にも当時の大結界の守り手を担っていた陰陽師と巫女の夫婦が愛し合ったことで、大結界に綻びが生じた。
 愛し合った夫婦が結界を展開した瞬間に霊力が暴走して大結界の一部が崩れ、そこからあやかしが流れ込んで近くの村や里に暮らす人々を本能のままに屠ったのだった。
 後に「歴代最強の陰陽師」と呼ばれる当時十になったばかりの陰陽師見習いの青年も、他の陰陽師や巫女たちと抗い、やがて誰もなし得なかった大結界に匹敵する結界の展開に成功する。
 幾人もの陰陽師と巫女の犠牲の末に、ようやくあやかしたちの魔の手から人の世を死守したのだった。
 
 後世で「雪消(ゆきぎえ)(へん)」と呼ばれるこの出来事の中で、結界術を生み出した功績を讃えられた陰陽師見習いは、国から大結界を守る次代の担い手に任じられるが、今日まで共に結界の守り手を担う巫女の座を空位としていた。
 大結界の崩壊とあやかしに襲われる人間の阿鼻叫喚の地獄絵図を見たことで、恋は愚かであり、愛情は人を弱くするという考えを強くしていた。
 それ故に愛や恋は任務の妨げにしかならないと、そんな考えで生きてきた。
 十三年前に自分が展開した強固な結界と、残された大結界に限界が近づいていると知らされるまでは——。

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