あやかしを鎮める契約夫婦ですが、恋だけは禁止です〜陰陽師の契約夫と契る3つの約束事〜

「でも旦那様は何も悪くありません。もしあるとしたらやはり私が……」
「自分を軽んじるな!」

 怜桜の怒声に柊詩は肩を震わせると、固く両手を握り締めて俯く。

「原因が不明だからと自分で責任を負おうとするな! 自分が罪を被れば全て解決するなどと自惚れるな! 原因はどこかにあるはずだ。それを考えて……」
「私がっ! きっと私が、旦那様に想いを寄せてしまったからです……!」

 秘めようと思っていた感情が口を突いて出てしまう。きょとんと目を丸くした怜桜に、柊詩は説明する。

「この『菫花の術』を行う男女は愛し合ってはいけないことになっています。霊力が暴走するから。私が旦那様を信頼してしまったから霊力が安定しなかったのです」
「馬鹿な! 相手への信頼関係だけで術は失敗するものか。もし失敗するとしたら、それは両者が愛し合った時だけだ……」
「信頼関係も愛情と同じです。それに信頼が愛情に変わる瞬間を私は知っていますから……」

 そして柊詩は息を大きく吸うと、覚悟を決めて養父の小倉以外には秘密にしていた過去を打ち明けたのだった。

「私の両親だった陰陽師と巫女は、十三年前までこの『菫花の陣』の守り手を任されていました。掟に逆らって愛し合って……『雪消の変』を起こしました」

 言葉を失った怜桜の顔を見るのが怖くて、柊詩は「今まで騙していて申し訳ありません」と深く頭を下げる。

「両親が『雪消の変』の主謀者であることは、お師匠様から黙っているように言われていました。嫁ぎ先の陰陽師が知ったら間違いなく離縁するからと……」

 国を未曾有の混乱と恐怖に陥れた「雪消の変」。その犯人である陰陽師と巫女の娘だと知られたら、間違いなく柊詩は罪人の子として後ろ指を指される。
 陰陽師たちからも忌避されて、巫女にすらなれない可能性も充分考えられた。
 それを危惧した小倉は両親のことは誰にも言わないように、幼い柊詩を諭して固く禁じさせた。
 そして柊詩も両親が犯した罪滅ぼしをするために、自分の全てを巫女に捧げることを決めたのだった。

「本来であれば旦那様から『菫花の陣』を担う巫女の役目を提案された時に断るべきでした。ですが私はどうしても巫女になりたかったのです。かつて両親が犯した罪を、生涯をかけて贖罪するために……」
「勝手に決めつけるな。『菫花の陣』に生まれは関係ない。まだ俺たちが知らない何かがあるはずだ。何かが……」

 そこまで言ったところで怜桜が閃いたようにハッとする。そして「来い!」と柊詩の腕を引いたのだった。

「俺がこの『菫花の陣』と『菫花の術』を知ったのは、師匠が持っていた初代陰陽師と巫女の記録だ。そして後半の箇所が失われていた。そこに何かあるはずだ。今から行くぞ!」
「今って……もう夜中ですよ」
「国の命運を握っているのに躊躇していられるか。ついて来い。お前に罪は無いと証明してやる!」

 半ば怜桜に引きずられる形で大神社の地下を後にした柊詩たちはその足で小倉の家に向かう。質素な家の戸をガンガンと乱暴に怜桜が叩くと、草臥れた浴衣とボサボサの白髪交じりの髪にずれた眼鏡を掛けた寝ぼけまなこの小倉が戸を開けてくれたのだった。

「天華君に……柊詩? こんな夜更けにどうしたんだい?」
「時間が無いから説明は後だ。先日読ませてもらった初代陰陽師と巫女の記録をもう一度見せてくれ」
「それは構わないが、とりあえず入りなさい」

 小倉に言われるなり、挨拶もそこそこに足を踏み入れた怜桜の背を柊詩も追い掛ける。
 久々に会う養父や思い出の詰まった実家を懐かしむ余裕もなく、怜桜の後に続いて記録が保管されているという小倉の私室に向かったのだった。
 柊詩が家を出てから掃除をしていなかったのか、無尽蔵に広げられた書物と先程まで寝ていたと思しき散らかった寝具だけの室内で、怜桜は初代陰陽師と巫女の記録に片っ端から目を通す。その間、部屋の入り口で待機していた柊詩は小倉からこっそり質問されたのだった。

「いったい何があったんだ。今日は『菫花の陣』の展開日のはずだろう?」
「儀式は成功しましたが、『菫花の陣』に変化が無くて……私の血筋に原因があるかもと言ったら旦那様は違うと仰って、初代陰陽師と巫女の記録を調べることになりました……」

 儀式の時に起こったことを柊詩が説明すると、小倉は「なるほどね……」と眼鏡を掛け直したのだった。

「そういうことなら、そこに答えは無いよ。読むだけ無駄さ」
「どういうことですか?」
「……教えてあげよう。ついてきなさい」

 その言葉に柊詩と怜桜は不思議に顔を見合わせるが、有無を言わせない小倉に促されるまま部屋を出て客間に通される。二人が並んで座った途端に、小倉は「まず単刀直入に聞こう」と話し始める。