あやかしを鎮める契約夫婦ですが、恋だけは禁止です〜陰陽師の契約夫と契る3つの約束事〜

「だっ、旦那様……」
「もたもたするな! 今のうちに護符を展開しろ! お前は巫女だろう! コイツらを鎮めなくてどうする!!」

 その言葉にハッとして柊詩は息を呑む。自分は怜桜に守られるだけの契約妻じゃない。この国に暮らす人たちを守る巫女なのだ。
 手の甲で涙を払うと、すぐに護符を数枚取り出す。急に変わった柊詩の気迫に飲まれたのか、残っていたあやかしたちの動きがわずかに鈍る。
 その隙を逃さず符を放った怜桜の「封!」という祓い詞が響き渡り、それが鬨の声となってあやかしたちに圧されていた陰陽師と巫女を奮い立たせた。
 
「祓い給え、清め給え。かの者たちを鎮めよ!」

 柊詩が放った護符から白い光が溢れてあやかしたちを包み込む。二人の奮闘によって大半は浄化できたが、頭領と思しき一体だけは最後まで甲高い声を上げて、柊詩たちに襲いかかってきたのだった。

「祭りで力を集めたか……手を貸せ。俺の刀にお前の浄化の力を乗せろ」
「はい!」

 いつの間にか連携が取れるようになった二人にはそれだけで十分だった。柊詩は目を閉じると、静かに詞を紡ぐ。
 清らかな淡い光が柊詩の護符から溢れて、怜桜が持つ刀へと流れ込んでいく。
 怜桜と心が重なって一つになったのを実感すると、「今です!」と柊詩が合図する。怜桜は頷くと、刀を大きく振り上げて霊力を解き放ったのだった。

「祓え!」

 眩いばかりの白光が森を照らし、あやかしは断末魔の叫びを上げて霧と化す。そして蔵周辺を包んでいた瘴気が風に溶けた時には、何事もなかったかのような静寂が戻ったのだった。

「終わりました」
「あ、ああ……」

 安堵したのも束の間のこと。怜桜の体がふらりと傾ぐと、地面に突き立てた刀を支えに片膝をついてしまう。
 慌てた柊詩に「少し眩暈がしただけだ」と怜桜が制したのだった。

「血を流しすぎたか……ここまで激しく戦ったのは久しぶりだったからな」
「手当てをさせてください」
「必要ない。お前は他の奴らを手伝って後始末をしろ。巫女が浄化の詞を唱えるからお前も一緒に……」
「ですが……」
「天華!」

 その声で振り返ると、別行動をしていた小千谷たちが駆け寄ってくるところだった。

「悪い、遅くなった。ちょっとコイツを探していてよ」

 小千谷に腕を捻り上げられていたのは笹丘だった。「痛い! 離しなさい!」と抵抗して声を上げているが、小千谷たちはどこ吹く風といった様子であった。

「他の陰陽師が式を飛ばして教えてくれた。コイツが今回の騒動の犯人だ」
「笹丘様が?」
「ああ。祭りの櫓に自作の呪い札を貼り付けてあやかしをおびき寄せやがった。柊詩さんに使った霊符も同じだ」

 柊詩の肩に貼り付いたままの霊符に目を移す。この霊符は使いきりのようで今は効果を失っているが、これ以上あやかしを呼び寄せる前に浄化するべきだろう。柊詩が考えていることに気付いたのか、小千谷は連れていた巫女に頼んで霊符を剥がしてくれたのだった。

「後はオレたちに任せて、手当てしてもらえ。柊詩さんはコイツをお願いします」

 小千谷が笹丘を罪人のように連れて行き、他の陰陽師と巫女たちはこの地の浄化と後片付けを担ってくれる。ほうほうの体で蔵の壁に寄り掛かった怜桜だったが、滑るようにその場に座り込んだのだった。
 柊詩はすぐに懐から清潔な布を取り出すと、「肩を失礼します」と膝をつく。