あやかしを鎮める契約夫婦ですが、恋だけは禁止です〜陰陽師の契約夫と契る3つの約束事〜

「すまん。遅くなった」
「いいってことよ。こんなに人が多ければ、ここまで来るのも大変ってな。こっちのお嬢さんが噂になってるお前の奥さん?」
「ああ。名を柊詩という。彼は俺と同じ陰陽師の小千谷(おぢや)だ」

 小千谷という潑剌とした青年は柊詩と同じくらいだろうか。短く刈り込んだ黒の短髪に、くりっとした目が愛嬌のある陰陽師であった。
 そうして他の陰陽師を紹介してくれた怜桜だったが、巫女の紹介になったところで不愉快そうに眉を顰める。

「……なぜ巫女の中に見習いがいる?」

 一人だけ豪奢な浴衣に身を包んで何くわぬ顔で立っているのは笹丘だった。誰にもバレないように柊詩を睨み付ける姿に怯んでしまい、つい怜桜の腕を掴む手に力を込めてしまう。

「お前も知っているだろう。今回はどうしても巫女が足りないって。そこで大神社に相談して見習いを一人借りたんだよ。彼女は巫女の名家の血を引く優秀な見習いで独り立ちも近いから丁度いいだろうって」
「しかし彼女は……いや」

 ここは言い争うべきではないと考えたのだろう。その代わりに笹丘から庇うように柊詩の肩に腕を回した怜桜に、「あの……」と声を掛ける。

「今日の警邏の助けになるかもしれないと護符をたくさん用意してきました。皆様の分もありますので、良ければ使ってください。身代わりと簡易の結界札をそれぞれ用意しています」

 そう言って柊詩は書き溜めていた護符を出したが、「いらん」と突っぱねたのが怜桜であった。

「巫女の護符など不要だ。それはお前が使え」
「そんなこと言うなって。護符はあるだけ助かるぜ。ありがとうございます、柊詩さん」

 渋る怜桜を無視して護符を受け取った小千谷が、手際良く他の陰陽師と巫女たちに配ってくれる。
 誰もが感謝の言葉と共に快く受け取り、巫女たちからは出来の良さを褒められてこそばゆい気持ちになる中で、唯一不貞腐れていたのが笹丘だった。
 小千谷から受け取る際に「ありがとうございます」と端的に返したものの、迷惑そうに懐に仕舞う姿が気になってしまう。そんな笹丘の様子に気を取られていると、怜桜が呆れたように溜め息を吐いたのだった。

「他人の心配をする前に自分を心配したらどうなんだ?」
「人を守ってこその巫女です。旦那様もせめて一枚くらいは受け取っていただけませんか。これは他の護符と違って特別製なのです。きっと旦那様の御身を守ります」

 他の護符はあやかしからの攻撃を身体に受けた際に一度だけ代わりに受けてくれる身代わりの護符か、攻撃を一度だけ防ぐ結界の護符のどちらかだが、この護符にはその両方が備えられている。
 本当は自分用に用意したつもりだったが、他の護符を受け取らないならせめてこれだけは怜桜に渡したかった。そうしたら柊詩も安心してあやかしと戦える。
 そう考えて怜桜に差し出したものの、柊詩と護符を交互に見るばかりでなかなか受け取ってもらえない。
 結局ここで押し問答を繰り返して夫婦仲に懸念を持たれるくらいならと考えたのか、柊詩の護符は渋い顔を浮かべたままの怜桜の手に渡ったのだった。
 
「使わないだろうが受け取っておく……屋敷に戻ったら返すからな」
「ありがとうございます」

 最後は小声だったがとりあえず怜桜が護符を受け取ってくれたので柊詩はそっと安堵の息を吐く。護符を懐に仕舞った怜桜はすぐさま陰陽師の顔に戻ったのだった。
 
「これより二手に分かれて警邏に当たる。一つは俺が、もう一つは小千谷が指揮を取れ」

 そして陰陽師と巫女それぞれの実力を考慮して二手に分けると、後ほど本殿で落ち合うことを約束して別れたのだった。

 ◆◆◆