今日も、あなたとごはんを

「くるみ、アイス食べるか?」
「ん、食べる!」
祖父はとても優しくて、何でも知っていて何でも作れちゃうなんでも屋さんだった。小学校で逆上がりができないと言うと、私のためにパイプで鉄棒を作ってくれて、私が一輪車が欲しいというとすぐに買ってくれるような祖父だった。小学生の私は正直あまりわかっていなかったけど、冗談をぼそっと言って静かに笑っている、そんな祖父が大好きだった。
くるみ、そう呼ぶ声がとても優しくて、安心できて、でも、今の私は祖父のあの大好きな声を思い出すことができない。
とても心配症で、学校から持ち帰った通知表をスパゲッティのソースで汚してしまい、スパゲッティが喉を通らなくなったり、受験期に久しぶりに会いに行くと「太った?」と言われて普通にショックを受けたり、思い返せば思わず笑ってしまう様な思い出ばかり。
「じいじ、抱っこ」
そういうとそっと膝にのせてくれて、幼い頃、お風呂上がりの髪をドライヤーで乾かしてくれたあの大きな手のひらが冷たくなって、優しく微笑んでいた顔がまるで眠っているようで、そんな祖父をまっすぐに見ることができなかった。

「じいじ、死んじゃったって」
そう、父に言われ、会いに行こうかと車に乗り込んだ。高校2年8月、夏真っ只中なのにどこか涼しい夜だった。ウォークマンで音楽を聴きながら、後部座席に座る。頭の中が真っ白だった。不思議と平気だった。
新型コロナウイルスが世界中で蔓延して、マスク姿が当たり前になって、遊びにも行けなくなって、お見舞いにも行けなくて、最期のときもそばにいることも許されなくて。
最後に見た顔が笑っていたのかすらも、覚えていない。
でも、まるで眠っているかのようにじいじが布団に寝ている。あんなに会いたかったじいじが目の前にいる。祖母にお話ししてあげてと言われて、何と言ったらわからなくて、なんだか怖くて。ただ、自分の苦しまぎれの息が喉の奥で震えるだけで、目の前はぐちゃぐちゃで真っ暗だった。

『くるみはどうするのかね』
私の知らないところでずっと私の将来を心配してくれていた祖父。
もっと、話をすればよかった。もっと、会いに行けばよかった。
大学に合格するのも見てほしかった。これからの私を見ていてほしかった。
大好きなじいじ。
心配症でとっても優しくて、みんなにくるみはじいじそっくりだねってよく言われて。
思い返せば後悔ばかりだった私。
もっと、一緒にいたかった。