「おい、お前、何でここに?」

 「いやー、手伝ってる部活が無かったみたいで、そのまんま帰るのもなぁ、なんて。」

 会議から戻ると、理科準備室に居るはずのないヤツがいた。

 「まあ、他の先生の部屋に行かれるよりマシか。用が済んだら帰りなさい。」

 「はぁい。」

 ヤツは面倒くさそうに返事をして、丸椅子から腰を上げた。まったく幾つになってもバカ息子だ。
 私はM字の額に手を当て、はぁ、とため息をついた。

 「そうだ。鹿野と会う機会はあるか?」

 「いや、だからテスト休みだって。」

 「あぁ、そうだった。じゃあ、この忘れ物は担任に届けるか。」

 黒い理科室の机の上には鹿野の学生証と充電された携帯電話が忘れられていた。