side白ウサギ
「私はここに残りたい」
裁判後、〝不思議の国のアリス〟の主人公と同じように意識を手放したアリスが次に目覚めた場所は、僕の小さな家だった。
そして全てを知ったアリスは僕に力強くそう答えた。
「…っ!アリス!」
嬉しさのあまり思わず、僕はアリスに飛びつく。
あぁ、やっと。やっとだ。
ついにアリスを手に入れた!
アリスがこの世界に残ることを決めた時、僕は歓喜で震えていた。
ーーーやっとアリスがこの世界を選んでくれたから。
アリスがこの世界を選ぶまで、僕は何度も何度も同じ時間を繰り返した。
アリスは毎回、そして今回も、初めてこの世界で冒険していると思っているが、それはもう何十回と繰り返されてきたことだった。
この世界の住人の誰も知らない真実。
同じことを何度も何度も繰り返された世界。
誰もが昨日と今日が、今日と明日が、同じであったこと、あることを知らない。
…まぁ勘の鋭い者は薄々気づいていたかもしれないが。
だが、そんなことどうでもいい。
全てはアリスに正しい答えである、こちらの世界を選ばせる為に。
アリスはいつもあちらの世界を選んだ。
何故か帰ることに執着していた。アリスを殺した世界だというのに。
いやこれには語弊がある。正しくは殺そうとした世界、だ。
アリスは僕に
「私はもうあっちでは死んでいるの?」
と、自分の生死を尋ねた。
僕はそんなアリスに「死んでいる」と答えたが、実はアリスはまだあちらで辛うじて生きていた。
きっと体に魂を戻せば息を吹き返すだろう。
だがそれがどうしたという?
あのまま生きたってアリスはただ死んだように、死を望みながら、生きることしかできなかったはずだ。
「アリス。僕のアリス。ずっとここにいよう。ずっと一緒だよ。もう離れないからね」
「もちろんだよ、白ウサギ」
強く、もう2度とアリスを離さないように抱きしめれば、アリスは僕と同じように僕を抱きしめ返してくれた。
あぁ、やっとだよ、アリス。
そんな幸せの絶頂の中、ふと、頭に過去の僕の姿がよぎった。
『アリス!どうして!?どうしてなの!?』
『あの世界は君を壊したじゃないか』
『僕は君を救いたい一心で血の滲むような努力をしてきたんだよ』
『許さない、許さないよ』
『だから、もう一度だよ、アリス』
あちらに帰ることを選んだ最初のアリスに絶望し、初めて時を戻す魔法を使った。
あの時、僕は戸惑うアリスに泣きながら詰め寄った。
そしてそこから、何十回と同じ日を、同じことを繰り返したが、もうそれも今回でおしまい。
今度こそ、ハッピーエンドだ。
*****
女王の城で仕事を片付けながら、僕は思い返す。
あの日、アリスがここに残るとやっと決めてくれた瞬間を。
あれから随分と時間が経ったが、それでも僕はあの日の喜びを今でも鮮明に覚えており、思い返すだけであの喜びが蘇る。
「さて…」
窓の外を見れば、アリスが行きたいと言っていた森が目に入る。
アリスの望み通り、この世界の生き物全てに自由を与えたので、あそこにいる竜はもう僕が制御できるものではない。
本当は危険だから近づけさせたくないのだが…。
だがしかしここではアリスが全て。アリスに逆らうことは僕自身望んでいない。
近々、アリスがあの森に近づく前に僕自身でどんな場所か確認しておこう。そして命に関わる危険なものがあれば例えそれがアリスが会いたがっていた竜でさえも消してしまおう。
「よし!やるか」
僕は自分を鼓舞し、再び仕事に取り掛かった。アリスが生きやすい世界にする為に僕はこの世界を作っていく。
ねぇ、アリス。
アリスは僕の全てだ。
もう死ぬしかなかった子ウサギの僕の命を救い、溢れんばかりの愛情を注いでくれたのは、他でもないアリスだった。
だから僕の命はアリスにあげようと決めた。
その為に、僕は愛するアリスのそばを離れ、死んだ方がマシだと思えるほどの厳しさの中で、努力を重ね、魔法を手に入れた。
そして今度は僕がアリスを救い、幸せにすると誓った。
ねぇ、アリス。愛しているよ。
君をこの僕が用意した永遠の世界で、愛し続けるからね。
僕に愛情を注ぎ続けてくれたあの日のアリスのように。
ねぇ、幸せになろうね、アリス。
happy end side白ウサギ end.

