3-1 過去を知る友人

__初めてだった。俺の親友にあそこまで懐いた後輩は

 小学校に通っていることからなんだかんだ仲のいい親友の椿快斗。昔は誰とでも仲良くなれる無邪気な性格で、小学生の時なんかは学年全員みんな俺の友達!ってレベルまで交友関係は広かった
『りんどー!家帰ったらすぐにいつもの公園集合な!』
 学区の端っこで俺と椿が二人でよく遊んでいた公園。俺の家の目の前にあり、同級生が近くに住んでなくてしょっちゅう二人で走り回っていた
 中学三年の二学期が終わりかけの頃。受験でピリついた学校と、下の学年が盛り上がっている、カップルでクリスマスを過ごすなんて浮かれた話題。ストレスがだいぶ溜まる頃に椿は変わってしまった
 日が沈みかけた時間帯。勉強が思うように進まなくて気分転換に公園へ行くと、ベンチに誰かが座っていた。それが誰か分かった俺はただ事ではないと察して何も言わずにそいつの隣に座った
『りん、どう……?』
 俯いた顔をあげたそいつ、椿の目は真っ赤だった。それでも、何も聞かないようにした。聞いてしまうと、椿の傷を抉る気がしたから。そして……十中八九、椿を泣かせた原因であろう莇生に手が出そうになるから
『今は泣いとけ。泣けるだけ泣いてすっきりすりゃいい』
 元気でも、陽気でも、友達が多くても、こいつは周りのやつらが思うよりずっと繊細な人間。ずっと堪えていた何かがあった。それが崩壊してしまったのだろう
『ごめん……ごめん竜胆……』
 自分のことで精一杯なのに、俺を気遣うほど優しさと気遣いができる椿。そんな椿が、三学期が始まる頃には
『椿おはよ』
『……おはよ』
『なんか、印象変わったな』
『そうか?』
 莇生が好きだとか言ったウルフっぽい髪を切り、元気を纏った声は淡々とした声になっていた。冬休み中に椿から聞いた莇生との別れ話。あの最低で最悪な出来事が椿を変えてしまった。人を寄せ付けないようになり、俺をも突き放そうとしていた。自分から望んで孤独になろうとした。でも、どれだけ出来事が大きかろうと椿の本質は変わらなかった。優しすぎる性格も、周りを大切にしようとする性格も、ずっとあの頃の椿のままだった
『椿』
『なんだよ竜胆。忙しいから話しかけんな……』
『いつもの公園』
『は?』
 一つの賭けだった。こいつの本質が変わってないことを証明するための賭け
『18時な。じゃあ』
『ちょ、おい!』
 呼び止めようとする椿を無視して学校を出た。あいつは来る。そんな自信があった


『……やっぱり、お前なら来てくれると思ってた』
『寒い。何の用だよ』
『あがってけよ。俺の家』
 その言葉に目を見開く椿。椿を家に迎えるのは小学生以来だ。しかし泊まらせれば時間に余裕がでて、こいつの本音を聞く機会になる
『お前の母さんには俺の母さんから連絡入れさせるから。久々にゆっくりしろよ。あいつが現れてから二人で過ごせること減っただろ』
『っ……』
 諦めたように椿は俺の家の方面へ歩き出した
『俺は、お前の親友辞める気ねぇから』
 家の扉を開ける直前にそう呟くと椿は俯いた
『母さん、今日椿が家泊まるから』
『あら、快斗くんが来るなんて久々じゃない〜ゆっくりしていってね!』
『あ、ありがとうございます……』
 あがってけとは言ったけど泊まれとは言ってない。しかし言ったもん勝ちだ
 強引だが俺を困らせた椿だ、少しくらい俺が困らせてもバチは当たらないだろう
『風呂入ってこい。近所とはいえ寒い中歩いてきて冷えてるだろ』
『わかった』
 そして十分後くらいに俺が置いておいた適当な服を着て出てきた
『風呂ありがとう』
 いえいえと答えながら椿を部屋に通した。クッションの置かれた床に座り、俺は本題を話す
『お前、あいつに何言われたんだよ』
『……関係ないだろ。別に』
『なかったら聞いてねぇよ』
 俺の親友に支障をきたされてるんだから
『何言われてようと俺が何かできるわけじゃないし、それに対してお前が何を思うも自由だけどよ』
 椿の背中を軽く叩いた。お前は一人じゃないって伝わるように
『お前は俺のたった一人の親友だ。俺が信用できる親友はお前だけだ。何年もの時間で俺らが交わしてきた友情と信頼を無理やり自分から壊そうとするな』
『竜胆……』
 傷つきやすいお前を放っておけないんだ。例え誰も寄せ付けない一匹狼になろうとも、警戒心の強い猫のようになろうとも、人間誰しも弱さはある。どうしようもなく弱くなって孤独を感じたときに、そばにいてやれなかったらどうするんだ
『自分から孤独を選ぶな。お前の強さも弱さも俺は知ってる。その上でずっと親友やってんだ。その親友のこの友情ナメんじゃねぇぞ』
 その言葉にやっと椿は涙を流した。変わってしまってから初めて涙を見せた
『ごめん、ごめん竜胆……』
『分かってる。椿が頑張っていたことは俺が十分分かってるから。大丈夫だ』
 桜良が来た日に椿が俺に釘をさしたこと。それは莇生のことはもちろん、この事も含まれていたのだろうな