※昔ばなし絵本シリーズ第20巻「天狗様と化け物岩」
※1999年初版。絵本作家・飯田サダハル氏による自費出版
※202■年童ノ宮市内の図書館寄贈本コーナーで白虎機関・上級研究員が発見したもの。
―――――――――――――――――――――――――
昔、むかし――。
今で言う童ノ宮と夢ノ宮の境目にある大きな山に鬼のクマゴロウという大男が住んでいました。
鬼のクマゴロウはとんでもない悪者でした。
時々、山から下りてきて麓の村や里を襲い、食べ物やお金、牛や馬、にわとりを盗む。刀を振り回して人を殺す。綺麗な女の人をさらって自分のねぐらに連れ帰る、などなど。
鬼のクマゴロウは神をも畏れぬ大盗賊だったのです。
このように多くの人々に恐れられ憎まれていた鬼のクマゴロウでしたが、その最後は呆気ないものでした。
鬼のクマゴロウは、都からされって来たとあるお姫様に産ませた自分の子供を召使いのようにこき使いイジメていましたが、その酷い扱いに耐え兼ねた子供は父親の元を逃げ出し、領主の館に助けを求めたのでした。
その子の言葉を頼りに、人々は洞窟に隠れ潜んでいた鬼のクマゴロウを捕まえることができました。
大勢の人の命を奪った鬼のクマゴロウには、大きな岩に死ぬまで頭を叩きつけられる石打の罰が与えられましたが、お話はそれでは終わりません。
たとえ、鬼のクマゴロウのような悪い人間であっても、惨たらしく殺されればこの世に恨みを残し、災いをなすことがあるのです。
鬼のクマゴロウの恨みは、鬼のクマゴロウが石打で処された大岩にとり憑き、それはそれは恐ろしい化け物岩に変えてしまったのです。
化け物岩には鬼のクマゴロウとそっくりな男の顔が浮かびあがり、ひとりでに動き回るどころか空を飛び回ったり、不愉快な笑い声を立てたり、自分の欠片を飛ばして人の耳の中に入り込んでやりたい放題、悪事を働いたのでした。
そして、その大きく重たい岩の身体を空から落っことして家や田んぼ、畑などをムチャクチャにしてしまいました。
化け物岩の悪さにほとほと困り果てた人々は、みんなで童ノ宮の神様にお祈りして
「どうか私達をお救いください」
「どうか化け物岩をやっつけてください」
と一所懸命お願いしました。
そんな人々の祈りに心を打たれた童ノ宮の神様は、稚児姿のてんぐ様になって現れ、こうおっしゃいました。
「あれは固くて重く、実に手強い。私の外法をもってしても追い払うことができるか、どうか。だけど、まずはいろいろ試してみましょう」
こうして、てんぐ様は化け物岩に戦いを挑まれました。
ですが、てんぐ様の言葉通り、てんぐ様が団扇で起こした強風を浴びせても、てのひらで生じた火の玉を投げつけても、目には見えない大たちで斬りつけても、化け物岩には傷一つつけられませんでした。
ですが、戦いが三日三晩続いた日の夜明け、てんぐ様はすさまじい力で化け物岩を蹴りつけ、その身体を半分ほど地面の中に埋めてしまったのでした。
化け物岩が完全に動かなくなるのを見届け、てんぐ様は人々にいました。
「ここをいわくらとして社を設け、この化け物岩を祀りなさい。本来なら犬畜生のごとき輩でも神とおだてて礼を尽くせば鎮まらない道理はありません」
そう言い残し、てんぐ様は童ノ御に帰ってゆきました。
人々は大いに喜び、てんぐ様に感謝をささげ、化け物岩のせいで命を落とした者達の魂を慰めるため、お祀りをしました。
そのお祀りはいつしか忘れられ、意味のないものとなり果てましたが――、鬼のクマゴロウの恨みを染み込ませた化け物岩は今もその場所に埋まったままです。
化け物岩がいつまでも鎮まっているよう、あなたも一緒にお祈りをして欲しいのです。
オン・アロマヤ・テング・スマンキ・ソワカ。
オン・ヒラヒラ・ケン・ヒラケンノウ・ソワカ。
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※1999年初版。絵本作家・飯田サダハル氏による自費出版
※202■年童ノ宮市内の図書館寄贈本コーナーで白虎機関・上級研究員が発見したもの。
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昔、むかし――。
今で言う童ノ宮と夢ノ宮の境目にある大きな山に鬼のクマゴロウという大男が住んでいました。
鬼のクマゴロウはとんでもない悪者でした。
時々、山から下りてきて麓の村や里を襲い、食べ物やお金、牛や馬、にわとりを盗む。刀を振り回して人を殺す。綺麗な女の人をさらって自分のねぐらに連れ帰る、などなど。
鬼のクマゴロウは神をも畏れぬ大盗賊だったのです。
このように多くの人々に恐れられ憎まれていた鬼のクマゴロウでしたが、その最後は呆気ないものでした。
鬼のクマゴロウは、都からされって来たとあるお姫様に産ませた自分の子供を召使いのようにこき使いイジメていましたが、その酷い扱いに耐え兼ねた子供は父親の元を逃げ出し、領主の館に助けを求めたのでした。
その子の言葉を頼りに、人々は洞窟に隠れ潜んでいた鬼のクマゴロウを捕まえることができました。
大勢の人の命を奪った鬼のクマゴロウには、大きな岩に死ぬまで頭を叩きつけられる石打の罰が与えられましたが、お話はそれでは終わりません。
たとえ、鬼のクマゴロウのような悪い人間であっても、惨たらしく殺されればこの世に恨みを残し、災いをなすことがあるのです。
鬼のクマゴロウの恨みは、鬼のクマゴロウが石打で処された大岩にとり憑き、それはそれは恐ろしい化け物岩に変えてしまったのです。
化け物岩には鬼のクマゴロウとそっくりな男の顔が浮かびあがり、ひとりでに動き回るどころか空を飛び回ったり、不愉快な笑い声を立てたり、自分の欠片を飛ばして人の耳の中に入り込んでやりたい放題、悪事を働いたのでした。
そして、その大きく重たい岩の身体を空から落っことして家や田んぼ、畑などをムチャクチャにしてしまいました。
化け物岩の悪さにほとほと困り果てた人々は、みんなで童ノ宮の神様にお祈りして
「どうか私達をお救いください」
「どうか化け物岩をやっつけてください」
と一所懸命お願いしました。
そんな人々の祈りに心を打たれた童ノ宮の神様は、稚児姿のてんぐ様になって現れ、こうおっしゃいました。
「あれは固くて重く、実に手強い。私の外法をもってしても追い払うことができるか、どうか。だけど、まずはいろいろ試してみましょう」
こうして、てんぐ様は化け物岩に戦いを挑まれました。
ですが、てんぐ様の言葉通り、てんぐ様が団扇で起こした強風を浴びせても、てのひらで生じた火の玉を投げつけても、目には見えない大たちで斬りつけても、化け物岩には傷一つつけられませんでした。
ですが、戦いが三日三晩続いた日の夜明け、てんぐ様はすさまじい力で化け物岩を蹴りつけ、その身体を半分ほど地面の中に埋めてしまったのでした。
化け物岩が完全に動かなくなるのを見届け、てんぐ様は人々にいました。
「ここをいわくらとして社を設け、この化け物岩を祀りなさい。本来なら犬畜生のごとき輩でも神とおだてて礼を尽くせば鎮まらない道理はありません」
そう言い残し、てんぐ様は童ノ御に帰ってゆきました。
人々は大いに喜び、てんぐ様に感謝をささげ、化け物岩のせいで命を落とした者達の魂を慰めるため、お祀りをしました。
そのお祀りはいつしか忘れられ、意味のないものとなり果てましたが――、鬼のクマゴロウの恨みを染み込ませた化け物岩は今もその場所に埋まったままです。
化け物岩がいつまでも鎮まっているよう、あなたも一緒にお祈りをして欲しいのです。
オン・アロマヤ・テング・スマンキ・ソワカ。
オン・ヒラヒラ・ケン・ヒラケンノウ・ソワカ。
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