下校中。

夕日の差し込む河川敷の近くで、塚森キミカは奇妙なものがうずくまっているのを目にした。

明らかに頭身のバランスがおかしい、禿げ上がった大きな頭。骨と皮しかないような痩せこけた体。そして大きく膨らんだ下腹部。

一応、腰蓑を巻いて人の形はしていたけれど明らかに怪異だった。

うわ、キモっ。

思わず顔ヲシカメテ、キミカはそこを通り過ぎようとした。

周囲の大人からはおかしなものを見たら絶対に関わってはいけないよと言われている。
お前は良くないものを寄せ付ける体質だからね。

自分でもそれはわかってる。
だけど……。

小さくため息をつき、キミカは今来た道を引き返す。

そして、学生鞄を開けながら、まだそこにうずくまっていた怪異に小さな声で話しかける。

「給食の残りのパンがあるねんけど……食べる?」

怪異がちょっと顔をあげてキミカを見た。
傷ついた子供みたいな目をしていた。

キミカがパンを手渡すと、怪異はそれをむしゃくしゃ食べた。食べながらぐずぐずと啜り泣いていたけど、嬉しそうだった。

やっぱり、引き返してよかった。
キミカはそう思った。

「追い詰められて」

「……キミカちゃん?」

緊張し、かすれた声が後ろから聞こえた。
塚森キミカは無造作に振り返る。親友の長谷川ユカリだった。
いや、親友だった、か。

「……ど、どうしたの?全身真っ赤で……これ、血だよね?ま、まさか、怪我したの?」

声を震わせながら、ユカリがキミカに手を伸ばしかける。

その手が止まる。また、伸びそうになる。
そして、また後ろに引く。

怖いんやろな、とキミカは思った。
そりゃそうやろ。うちだってずーっと怖かったもん。

「心配することなんかなんもあらへん。これ、うちのケガちゃうし」

「じゃ、じゃあ誰の?」

ユカリの声はぼんやりしていて、まるで夢の中にでもいるようだった。
つっと透明な涙が、一筋、ユカリの白い頬を伝って落ちる。

ユカリはええ子やな、とキミカは思う。

本当は、今すぐにでも逃げ出してしまいたいだろうに。
うちが心配でそれができないなんて。

ほんまにええ子。

「口裂け女のに決まってるやん」

少し弾んだ声で、血走った目を大きく見開きながら
口元を半月を下にひっくり返したようないびつな形に歪めキミカは言った。

「襲ってきよったから、バラバラに切り裂いたってん。うち1人の力で」