水は暗く冷たかった。
歩くたびに水中の草が絡みつき、足を奪われそうになる。

緩やかに、だが確かな圧力を持った川の流れの中で
母親は息子の姿を探し求める。

マキオ。
栗原マキオ。
私の息子。
私のマキオ。

あの子はまだ八歳だったのに
未熟な私は苛立ちを押さえきれず当たり散らしてしまった。

あの子が泣きながら家を飛び出した時
すぐに追いかけていればよかった。

河原であの子の靴を片方だけ見つかけたのは
それから二時間も経ったあとだった。

だからこれは全部私のせい。

その通り、とでも言うように――
母親の肩になにかが触れる感触があった。

振りむいた先には
悪夢の産物としか思えない異形がいた。

歪に笑う白い能面。
黒くねじれた古木のような胴体
虫のごときおぞましく尖った六本の脚。

初めて見たはずなのに
母親にはそいつの名前が分かる。

浮足坊。
人の心の隙間に取り入り弱らせ殺す
水の怪異。

「お前は最悪の母親だ。なのに、なぜまだ生きている?」

異形のが能面の向こうで乾いた声で笑った気がした。