翼が震え、霧を裂く。
赤い紋が帯の根元で脈打ち、空気が震える。

彼はかつて人だった。
誰かの願いだった。
誰かの祈りだった。

だが今、彼は神である。
祓われ、裂かれ、残された。

「……それでも、見ている。」

叫びは空に消え、霧に沈んだ。
だがその目は、まだ赤く燃えていた。
――語りに沈めてください。

火が揺れ、
鳥居の影が二人の身体を裂くように伸びていた。

一人はこの世に成ったばかりの稚児。
一人は自らの血肉を捧げ、痛みと引き換えに神の加護を請うた娘。

稚児は白衣に血を滲ませ、
その手で、倒れた娘の肩をそっと支えていた。

稚児は何も語らない。
娘も何も語らない。

だが稚児が見つめる先にあるものと
娘の意識が途切れる寸前家がいた者は同じだった。

それは想いとなり言葉となって
神孕みの外法を成り立たせた。

――語りに静めてください。

炎の向こうでおぞましく、どす黒いモノたちが
耳障りな嘲笑をあげ、騒ぎ立てている。

この世には神の救いも仏の慈悲もないのだと。

そうかも知れぬ、と稚児は応える。
しかし、ならばこそ。
お前たちの前にこの天狗が立つのだと。

オン スマンキ テング アロマヤ ソワカ。
オン ヒラヒラ ケン ヒラケン ケンノウ ソワカ。

――語りに鎮めてください。