「これで名実ともにキミカは童ノ宮の氏子の一人、塚森家の一員だ」

そう上機嫌に言ってうちの隣――ソファーの背もたれにお父さんは深く身体を預ける。
『御穴』での儀式は無事終了し、来た時と同じようにうちはお父さんに手を引かれ、家へと帰っていた。

「何しろ、正式に神様から認めてもらったわけだからね。これから先もずっと」

「……それはつまり、」

少し考え、うちは言った。

「いつの日か、うちも童ノ宮の神様に連れて行かれるってこと?」

ほんの二秒か、三秒。
短い沈黙の後。

「……まあ、端的に言えばそうだね」

そう答えたお父さんの声は明るかった。

「だけど、キミカが神様のところに行くのはずっと先のことだよ。大人になって、お母さんになって子供を育ててお婆さんになって――とにかく、ずっと先だ。だから、そんな顔をしなくていいんだ」

思わずうちは自分の顔に片手で触れる。
お父さんに気をつかわせるほど、不安そうに見えたのだろうか?

数年前、この家に迎えられるまでうちはいつも不潔で真っ暗で狭くて不愉快な場所にずっとひとりぼっちで閉じ込められていた。

いつもお腹を空かせていた。
そして、いつも泣いて怒っていた。

そこでそのまま朽ち果てることと比べれば――、神様に連れて行かれる方が何百倍もマシだからだ。

「それに当然だけれど、いいことだって沢山ある」

お父さんの声はあくまでも穏やかで優しかった。

「童ノ宮の神様は見た通り、まだ小さなお子様でいらっしゃるからね」

屈託のない笑顔のまま、お父さんは続けた。

「ご自分のものには凄まじく執着される。欲張り屋さんだ。手を出そうとする者には人であろうと怪異であろうと、否、たとえ神仏であろうと容赦されない。そのご気性に訴えかければ――キミカに手を出そうとするヤツはみんな滅ぼしてくれるはずだ」