掲載誌：『週刊ミステリアス』令和七年
特集タイトル：「呪われた団地と消えた管理人」

　20年前の火災、隣人同士の確執、そして深夜に貼られ続ける謎の紙——市営団地B棟の謎を追う。

◇団地はなぜ「心霊スポット」になったのか？

　市の郊外、雑木林に囲まれた小高い丘の上に建つ市営団地B棟。
　昭和の高度成長期に建設された鉄筋コンクリートの建物は、建設から40年以上を経て老朽化し、住民の大半が退去した今、廊下や階段には生活の気配がほとんど残っていない。
　しかし半月前、8月頭からここは「心霊スポット」として若者の間で急速に知られるようになった。理由は「掲示板に勝手に紙が増える」という奇妙な現象である。

　夜な夜な団地の掲示板に、赤い紙が現れる。誰が貼っているのか、目撃者はいない。剥がしても翌日にはまた同じ紙が貼られている。
　これだけなら悪戯にすぎないが、地元の人々は「ある家族の怨念だ」と囁く。

◇あの火災がすべての始まりだった

　平成12年の夏、団地の一室である303号室から出火。母子4人が犠牲になった。
　当時の新聞は「母親の不注意による火災」と報じたが、取材を進めると住民の間では異なる証言が残っている。

　さらに隣室の307号室住民が「自分の娘が303の子にいじめられている」と執拗に訴えていたことも分かった。しかし、学校や教育委員会の調査では“いじめの事実は確認できない”とされている。
　では、307の訴えは虚偽だったのか。303の母親は濡れ衣を着せられ、追い詰められた末に火を放ったのか。真相は未だに闇の中だ。


◇管理人の失踪

　団地の掲示板に異常な紙が貼られ始めたのは、火災からしばらく経ってからのことだという。
　当時の管理人は毎晩のように掲示板を見回り、紙を剥がし続けていた。
　管理人本人も姿を消した。家族や自治会が行方を探したが、発見には至っていない。

　団地に残されたのは空の管理人室と、紙を剥がした痕跡だけである。

◇「心霊スポット」

　一方で、この団地は『恐怖の心霊スポット』として若者たちに人気を集めている。動画配信者が深夜に潜入し、掲示板の紙を映そうとしたが、配信中に映像が突然途切れ、本人もSNSの更新をやめてしまった事例がある。

　地元警察は「立入禁止ではないが夜間の侵入は危険」と注意を呼びかけるにとどめ、怪異現象については一切コメントしていない。

◇現場取材

　編集部が現地を訪れたのは8月下旬。昼間の団地は蝉の声が響く静かな廃墟のようで、窓は板で塞がれ、階段には雑草が生えていた。
　掲示板には自治会のお知らせの残骸がテープで張り付いていたが、右下の角に、白い紙が一枚新しく重ねられていた。

　わずか10分前には存在しなかった紙である。同行したカメラマンは慌ててシャッターを切ったが、撮影した画像には文字が滲み、黒い染みのようにしか写っていなかった。


◇取材班が見たもの

　取材を終えて帰ろうとしたとき、廊下の奥から子供のような足音が響いた。
誰もいないはずの団地で確かに足音が近づき、しかし姿は見えない。
同行した編集部員は「声を聞いた」と顔を青ざめさせた。