9:ザ・キャットテイル メンバーインタビュー 202■年■月■日敢行 ギャツビー石川(Pr)
「(中略)紺野は大好きですからね、猫実が。ずーっと懐いてるんですよ。同い歳ですけど、弟みたいに。いや、俺が(猫実を)嫌いだっていうんじゃないですよ?」
ステージの上とは違う、薄い色のウェリントンサングラスの奥の石川の目は、メンバーの話をするとき特別優しく見えるように感じられる。紳士然とした上品な所作で細身のブラックデニムを纏った脚を組み直し、中折帽のツバで目元を隠しながら、照れ臭そうに笑った。
(中略)たいそう“変わり者”だったというジルだが、彼と出会った小学生時代には、すんなりと親しくなったのだろうか。当時の話を聞くと、石川は気まずそうに少し微笑む。
「まあ……そうですね、すぐ仲良くなったと言ったら嘘になるというか……(笑)」
当時、石川は元々実家のあった長野県の山間部から都内へ引越し、小学3年生でジルや紺野と同じ学校へ転入したのだという。
「親戚がらみの揉め事で、ちょっと家族が元々の実家にいられなくなってしまったんですね。田舎の狭い地域だったので、向こう三軒両隣石川家。だから、ちょっと夜逃げ……とまで言うと言い過ぎかもですけど、最低限の荷物で東京まで出てきて。でもうち、両親が心配性なので、『あんまり乱暴な子のいない学校に入れてあげたい』みたいな理由から、私立の小学校がいいねってなって。両親が頑張って、妹と一緒に入れてくれて。で、当時俺が編入したクラスで一番暴れん坊だったのが猫実だったっていう(笑)」
(中略)紺野の語る“ピアノ事件”以来、学校内でも目立つ子供だったというジル。しかし、バンドを常に一歩引いて冷静に見守る石川の目を通して見たジルの姿は、紺野が語ったヒーローのようなジル猫実像とは、少し違っていたらしい。
「別に……クラスの仕切り屋とか、ガキ大将とかではないですね。うーん、表現が難しいのだけど、ガキ大将が一目置く変わり者、みたいな」
下がりかけたサングラスを、右手で覆うようにして直す石川に、ジル少年は一体どのような変わり者だったのか聞いてみた。すると、「ひと所に留まっていられないみたいなんですよ」という、実に彼らしい特徴が返ってきた。
「常に何処かしらほかのクラスに紛れ込んで、誰かしらに話しかけてる。で、そのとき自分が好んでいる本とか、テレビ番組とか、映画とかの話をずっとするんですよ。別に子供同士の間で流行ってる番組とかアニメとかの話をするでもないし、ギャグとか披露するわけでもないんですけど、なんか笑いを取ってクラスに帰ってくる。場合によっては相手の悩みとか聞き出しちゃったりして、隣のクラスのいじめを解決したこともありましたね」
確かにだいぶ変わってはいる。お喋り好きでマイペースなジル少年は、例に漏れず転入生だった石川にも堂々と話しかけてきたらしい。
「正直言って、ウザかった(笑)やっぱり転入生だし、元々人見知りで、友達付き合いとかも積極的なタイプじゃない子供だったので、逆に意地になって、『誰とも仲良くなどしてやるものか』と思っていたので。でも、毎日話しかけてくるんですよ。毎朝挨拶代わりに、朝の読書で読んでるホラー小説見せびらかしてきて。こっちは怖い話とか大嫌いなのに、あらすじを、講談師みたいに話すんですね。情感豊かに、身振りを交えながら」
目に浮かぶようなその光景に思わず失笑すると、石川も溜め息をつくように吹き出した。今と変わらないですね、と言うと、石川は微笑んだまま何度も頷く。
「今とまさに同じです。ずっとおんなじ。で、段々こっちの懐に入り込んでくる。気づいたらクラス自体にも馴染めるようになってて……なんか、よくいるクラスの一軍とかとは違うけど、間違いなくそっち側ではあったし……うん、不思議なやつでしたね」
(中略)組んでいた腕を解き、無精髭をうっすらたくわえた顎を指先で撫でながら、石川は虚空に浮かんだ思い出を辿るように顔を上げた。
「猫実って、中学に進学したぐらいのタイミングで1回不登校になるんですよ。1年の1学期まではそれまで通りだったんですけど、夏休みの途中から連絡が取れなくなってきて、2学期には顔出さなくなって。確かにじっと席に座っていられないし、授業聞かない子供だったんですけど、成績だけは良かったからなんとかなってたのが、それで完全に問題児になっちゃって。俺と紺野で毎日、プリントとか持って猫実の家まで訪ねて行って。お母さんに許可取って、あいつの部屋の前でラジカセで音楽かけたりして(笑)」
(中略)さぞや苦労は尽きなかったことだろう。どの程度の期間だったのか問うと、1年かな、1年ぐらいかかりましたね、と独白のように答えてくれた。石川の中学時代は、「ジル猫実の“天の岩戸”を叩き割ることに情熱を注いだ時期」だったという。
「(中略)紺野は大好きですからね、猫実が。ずーっと懐いてるんですよ。同い歳ですけど、弟みたいに。いや、俺が(猫実を)嫌いだっていうんじゃないですよ?」
ステージの上とは違う、薄い色のウェリントンサングラスの奥の石川の目は、メンバーの話をするとき特別優しく見えるように感じられる。紳士然とした上品な所作で細身のブラックデニムを纏った脚を組み直し、中折帽のツバで目元を隠しながら、照れ臭そうに笑った。
(中略)たいそう“変わり者”だったというジルだが、彼と出会った小学生時代には、すんなりと親しくなったのだろうか。当時の話を聞くと、石川は気まずそうに少し微笑む。
「まあ……そうですね、すぐ仲良くなったと言ったら嘘になるというか……(笑)」
当時、石川は元々実家のあった長野県の山間部から都内へ引越し、小学3年生でジルや紺野と同じ学校へ転入したのだという。
「親戚がらみの揉め事で、ちょっと家族が元々の実家にいられなくなってしまったんですね。田舎の狭い地域だったので、向こう三軒両隣石川家。だから、ちょっと夜逃げ……とまで言うと言い過ぎかもですけど、最低限の荷物で東京まで出てきて。でもうち、両親が心配性なので、『あんまり乱暴な子のいない学校に入れてあげたい』みたいな理由から、私立の小学校がいいねってなって。両親が頑張って、妹と一緒に入れてくれて。で、当時俺が編入したクラスで一番暴れん坊だったのが猫実だったっていう(笑)」
(中略)紺野の語る“ピアノ事件”以来、学校内でも目立つ子供だったというジル。しかし、バンドを常に一歩引いて冷静に見守る石川の目を通して見たジルの姿は、紺野が語ったヒーローのようなジル猫実像とは、少し違っていたらしい。
「別に……クラスの仕切り屋とか、ガキ大将とかではないですね。うーん、表現が難しいのだけど、ガキ大将が一目置く変わり者、みたいな」
下がりかけたサングラスを、右手で覆うようにして直す石川に、ジル少年は一体どのような変わり者だったのか聞いてみた。すると、「ひと所に留まっていられないみたいなんですよ」という、実に彼らしい特徴が返ってきた。
「常に何処かしらほかのクラスに紛れ込んで、誰かしらに話しかけてる。で、そのとき自分が好んでいる本とか、テレビ番組とか、映画とかの話をずっとするんですよ。別に子供同士の間で流行ってる番組とかアニメとかの話をするでもないし、ギャグとか披露するわけでもないんですけど、なんか笑いを取ってクラスに帰ってくる。場合によっては相手の悩みとか聞き出しちゃったりして、隣のクラスのいじめを解決したこともありましたね」
確かにだいぶ変わってはいる。お喋り好きでマイペースなジル少年は、例に漏れず転入生だった石川にも堂々と話しかけてきたらしい。
「正直言って、ウザかった(笑)やっぱり転入生だし、元々人見知りで、友達付き合いとかも積極的なタイプじゃない子供だったので、逆に意地になって、『誰とも仲良くなどしてやるものか』と思っていたので。でも、毎日話しかけてくるんですよ。毎朝挨拶代わりに、朝の読書で読んでるホラー小説見せびらかしてきて。こっちは怖い話とか大嫌いなのに、あらすじを、講談師みたいに話すんですね。情感豊かに、身振りを交えながら」
目に浮かぶようなその光景に思わず失笑すると、石川も溜め息をつくように吹き出した。今と変わらないですね、と言うと、石川は微笑んだまま何度も頷く。
「今とまさに同じです。ずっとおんなじ。で、段々こっちの懐に入り込んでくる。気づいたらクラス自体にも馴染めるようになってて……なんか、よくいるクラスの一軍とかとは違うけど、間違いなくそっち側ではあったし……うん、不思議なやつでしたね」
(中略)組んでいた腕を解き、無精髭をうっすらたくわえた顎を指先で撫でながら、石川は虚空に浮かんだ思い出を辿るように顔を上げた。
「猫実って、中学に進学したぐらいのタイミングで1回不登校になるんですよ。1年の1学期まではそれまで通りだったんですけど、夏休みの途中から連絡が取れなくなってきて、2学期には顔出さなくなって。確かにじっと席に座っていられないし、授業聞かない子供だったんですけど、成績だけは良かったからなんとかなってたのが、それで完全に問題児になっちゃって。俺と紺野で毎日、プリントとか持って猫実の家まで訪ねて行って。お母さんに許可取って、あいつの部屋の前でラジカセで音楽かけたりして(笑)」
(中略)さぞや苦労は尽きなかったことだろう。どの程度の期間だったのか問うと、1年かな、1年ぐらいかかりましたね、と独白のように答えてくれた。石川の中学時代は、「ジル猫実の“天の岩戸”を叩き割ることに情熱を注いだ時期」だったという。

