8:ザ・キャットテイル メンバーインタビュー 202■年■月■日敢行 紺野ヒロミ(Dr)
「(中略)小学校時代っていえば、あの頃のジルちゃんってマジで変わり者だったんですよ。いや、今でも十分変わってますけど、本当に変な子というか」
出会ったばかりの頃の仲間について話し始めると、紺野の表情はいつにも増して柔らかく解れる。応接室のソファにくつろげた、デニムのショートパンツに包まれた脚を足踏みするように動かして、子供に戻ったように明るい声で笑った。
「僕にそう言われるって、大概だと思いません?(笑)」
(中略)いつ見ても少年のように無邪気な笑顔が印象的な実力派ドラマーは、「ジル猫実は自分が見出した才能」だと言って憚らない。メンバーが呆れるほどの愛をフロントマンに向ける彼は、幼稚園年中の頃に出会った幼馴染の、変わり者だったという幼少期について印象的なエピソードを教えてくれた。
「あいつ、小学校一年生でもう身長130センチ以上あったんですよ。みんな120センチもないのに、頭ひとつぶん大きくて。それだけでもう目立つのに、お父さんのお下がりの背広着てきたんですよ!もうびっくりしちゃって。多分、インナーは普通のポロシャツなんですけど、お父さんの背広で、お母さんから貰ったっていうスカーフ巻いてたんです。そりゃあ浮いちゃいますよね。クラスで浮きまくり。小学生のくせにポールスミスみたいなんだもん(笑)でもジルちゃん、ずっとあの性格ですから。言葉数こそ今ほど多くなかったですけど、すごくフレンドリーにクラスのみんなに接するんですよね」
(中略)独自のスタイルにこだわりのある、お洒落な小学生だった。それで今と変わらぬキャラクターなら、さぞやクラスの人気者だったことだろう。しかし、紺野は眉を顰めて意外な言葉を返した。
「いえ、最初は全然人気者とかではなかったです。どちらかというと……いじられキャラ。体のいい虐めだったかも。あるじゃないですか、『こいつなら蔑んでもいい』みたいな存在が、コミュニティにひとりいる空気感。なんか、子供ながらにそういう空気を感じ取っていて、僕はめちゃめちゃ嫌でしたね」
大事な幼馴染がクラスでぞんざいな扱いを受ける姿に耐えられなかった紺野は、「恩返し」としてジルと常に行動を共にし、行き過ぎた接し方をしてくるクラスメイトには時に強く意見することもあったという。
「(中略)ただね、ある日、音楽の授業が自習になったんですよ。担当の先生が急病とかで。お教室はもう確保されてしまっていたから、ピアノとかもある音楽室で自習することになって。小一がそんなんで調子乗らないわけないですし、臨時で来てくれた担任の先生の言うことなんかも全然聞かないですよ。真面目な子は真面目にやってるけど、3分の2は勝手にボール蹴ったり、ピアニカ弾いたりしてて。そんなときにね、ジルちゃんがピアノの前に座ったんですよ」
ピアノの前に鎮座したジルは、なんとその当時のヒットチャートの曲を片っ端から弾き始めたという。音楽番組やCM、ドラマやアニメで一度は耳にしたことのあるメロディに、やんちゃなクラスメイトたちは思わず遊びの手を止めた。
「みんなびっくりしちゃって!遊んでたやつらも床に座り込んで聴き入ってるし、真面目に勉強しようとしてた子も、座ったまんま、なんかこう……(両手をグーにして上半身だけでダンスしてみせる)ちょっと踊り出すし。先生なんか目ぇ白黒させてジルちゃんの傍らにしゃがんで、なんか見守り始めるし(笑)
当時はインターネットに楽譜出してる人とかもまだそんなにいなかったから、あとで『どうやって覚えたの?』って聞いたら『耳で聴いて覚えた』って言ってて。いわゆる耳コピですよね。お母さんがピアノやる方で、ジルちゃんもお母さんから習ってたのは知ってたんですけど、30分ぐらい弾き続けたから僕もびっくりしちゃって」
(中略)この騒動をきっかけに、今のジル猫実の片鱗が見え隠れするようになった。
「元々性格が明るいのも功を奏したんでしょうね。あれ以来、すっかり人気者の猫実くんです」我がことのように誇らしげに話す紺野。本当に仲がいいんですね、と言うと、うちのバンドはみんな仲いいですよ、と前置きしつつ、「でも僕なんか、幼稚園児の頃から見てるんですよ、ジルちゃんを!」と、身を乗り出して笑顔を見せた。右耳の燻し銀のラージホールがきらりと光る。
「身体が小さくて同じクラスのガキンチョたちに馬鹿にされてた僕と、進んで仲良くしてくれて。ジルちゃん、実はその頃から先生と同じぐらいピアノが弾けたんです。当時は歌は苦手だって言ってましたけど、高校生になって、GSや60年代〜70年代のロックンロールを好きになって、ジルちゃんが初めて歌ってみせたとき、本当にグッときちゃって。彼がボーカルなら絶対売れるバンドになるって確信したんです。だから、バンド始めるってなって、最初にボーカルに推薦したのは僕なんです(笑)」
「ジル猫実を見出したのは僕。そんなあいつが、たとえ一時でも大勢からナメられてた時期があったっていうだけでも、僕は正直許せないんです!ジル猫実は、僕のヒーローなので」
「(中略)小学校時代っていえば、あの頃のジルちゃんってマジで変わり者だったんですよ。いや、今でも十分変わってますけど、本当に変な子というか」
出会ったばかりの頃の仲間について話し始めると、紺野の表情はいつにも増して柔らかく解れる。応接室のソファにくつろげた、デニムのショートパンツに包まれた脚を足踏みするように動かして、子供に戻ったように明るい声で笑った。
「僕にそう言われるって、大概だと思いません?(笑)」
(中略)いつ見ても少年のように無邪気な笑顔が印象的な実力派ドラマーは、「ジル猫実は自分が見出した才能」だと言って憚らない。メンバーが呆れるほどの愛をフロントマンに向ける彼は、幼稚園年中の頃に出会った幼馴染の、変わり者だったという幼少期について印象的なエピソードを教えてくれた。
「あいつ、小学校一年生でもう身長130センチ以上あったんですよ。みんな120センチもないのに、頭ひとつぶん大きくて。それだけでもう目立つのに、お父さんのお下がりの背広着てきたんですよ!もうびっくりしちゃって。多分、インナーは普通のポロシャツなんですけど、お父さんの背広で、お母さんから貰ったっていうスカーフ巻いてたんです。そりゃあ浮いちゃいますよね。クラスで浮きまくり。小学生のくせにポールスミスみたいなんだもん(笑)でもジルちゃん、ずっとあの性格ですから。言葉数こそ今ほど多くなかったですけど、すごくフレンドリーにクラスのみんなに接するんですよね」
(中略)独自のスタイルにこだわりのある、お洒落な小学生だった。それで今と変わらぬキャラクターなら、さぞやクラスの人気者だったことだろう。しかし、紺野は眉を顰めて意外な言葉を返した。
「いえ、最初は全然人気者とかではなかったです。どちらかというと……いじられキャラ。体のいい虐めだったかも。あるじゃないですか、『こいつなら蔑んでもいい』みたいな存在が、コミュニティにひとりいる空気感。なんか、子供ながらにそういう空気を感じ取っていて、僕はめちゃめちゃ嫌でしたね」
大事な幼馴染がクラスでぞんざいな扱いを受ける姿に耐えられなかった紺野は、「恩返し」としてジルと常に行動を共にし、行き過ぎた接し方をしてくるクラスメイトには時に強く意見することもあったという。
「(中略)ただね、ある日、音楽の授業が自習になったんですよ。担当の先生が急病とかで。お教室はもう確保されてしまっていたから、ピアノとかもある音楽室で自習することになって。小一がそんなんで調子乗らないわけないですし、臨時で来てくれた担任の先生の言うことなんかも全然聞かないですよ。真面目な子は真面目にやってるけど、3分の2は勝手にボール蹴ったり、ピアニカ弾いたりしてて。そんなときにね、ジルちゃんがピアノの前に座ったんですよ」
ピアノの前に鎮座したジルは、なんとその当時のヒットチャートの曲を片っ端から弾き始めたという。音楽番組やCM、ドラマやアニメで一度は耳にしたことのあるメロディに、やんちゃなクラスメイトたちは思わず遊びの手を止めた。
「みんなびっくりしちゃって!遊んでたやつらも床に座り込んで聴き入ってるし、真面目に勉強しようとしてた子も、座ったまんま、なんかこう……(両手をグーにして上半身だけでダンスしてみせる)ちょっと踊り出すし。先生なんか目ぇ白黒させてジルちゃんの傍らにしゃがんで、なんか見守り始めるし(笑)
当時はインターネットに楽譜出してる人とかもまだそんなにいなかったから、あとで『どうやって覚えたの?』って聞いたら『耳で聴いて覚えた』って言ってて。いわゆる耳コピですよね。お母さんがピアノやる方で、ジルちゃんもお母さんから習ってたのは知ってたんですけど、30分ぐらい弾き続けたから僕もびっくりしちゃって」
(中略)この騒動をきっかけに、今のジル猫実の片鱗が見え隠れするようになった。
「元々性格が明るいのも功を奏したんでしょうね。あれ以来、すっかり人気者の猫実くんです」我がことのように誇らしげに話す紺野。本当に仲がいいんですね、と言うと、うちのバンドはみんな仲いいですよ、と前置きしつつ、「でも僕なんか、幼稚園児の頃から見てるんですよ、ジルちゃんを!」と、身を乗り出して笑顔を見せた。右耳の燻し銀のラージホールがきらりと光る。
「身体が小さくて同じクラスのガキンチョたちに馬鹿にされてた僕と、進んで仲良くしてくれて。ジルちゃん、実はその頃から先生と同じぐらいピアノが弾けたんです。当時は歌は苦手だって言ってましたけど、高校生になって、GSや60年代〜70年代のロックンロールを好きになって、ジルちゃんが初めて歌ってみせたとき、本当にグッときちゃって。彼がボーカルなら絶対売れるバンドになるって確信したんです。だから、バンド始めるってなって、最初にボーカルに推薦したのは僕なんです(笑)」
「ジル猫実を見出したのは僕。そんなあいつが、たとえ一時でも大勢からナメられてた時期があったっていうだけでも、僕は正直許せないんです!ジル猫実は、僕のヒーローなので」

