6:■■市立図書館公式サイト『地域の民話』コーナーより抜粋
むかしむかし……
ある集落に、とても歌の上手な青年が住んでいました。物静かで、体は決して丈夫ではありませんでしたが、たいへんな美丈夫で心優しかったため、集落に住む人々からも親しまれる人気者でした。
ある日、青年の暮らす集落でひどい山火事が起こりました。炎は山の木々や集落の畑や田んぼを舐めるように焼き尽くし、住民の暮らしは立ち行かなくなってしまいました。
火事が起こった、集落で一等高い山には火を噴く龍の姿をした神様が宿っていると言い伝えられており、かつてはあれ狂う荒神として知られ、集落の暮らしを幾度となく危険に晒してきました。しかし、騒ぎを聞きつけて集落にやってきた神主様によるご祈祷と捧げ物によりその魂は静まり、貴重な山の幸を与え、集落に繁栄と平和をもたらす守り神となってくれたのです。
住民は山の奥に設けられた祠に毎日作物や綺麗な花などを捧げ、神様に挨拶を続けてきました。しかし、時が流れるごとに、祠に捧げ物をしたり、掃除をしたりといった習慣を続ける住民は減っていき、祠の存在を知らない若者なども増えました。そのせいか、神様はご機嫌を損ねてしまったのです。
住民たちは、遠くの町の大きな神社から神主様を呼び寄せて、神様のお話を聞いていただきました。すると、神様はなんと、自分自身の魂の依り代となる人間の体を求めているというのです。
住民たちはすぐに話し合い、神様の依り代に相応しい、村の英雄となる若者を探しました。しかし、村長や地主の息子たちは重責から逃げるように姿を隠してしまい、そのほかの若者たちは、神様に相応しい力や、知恵、容姿などは持ち合わせておりませんでした。
住民のひとりが、あの歌の上手な青年を推薦しました。彼ならば、神様の依り代に相応しいに違いない。住民たちは口々にそう言い、彼は満場一致で依り代に選ばれました。
禊を終えた青年は神主様の指示通り、神様のおわします山のすぐ近くにある、村でもっとも広い川に身を沈めました。真っ白な装束に身を包んだ病弱な彼の細い体は、白鷺のように美しく、その肌は抜けるように白かったと村人は語り残しています。青年のお陰で、村は今まで通りの穏やかさを取り戻しました。村の住民たちは神様へのつぐないと青年への感謝を込めて、祠を立派な社に立て替えました。
儀式の三日後、赤い山茶花が咲き乱れる森の奥に建てられたその社の前に、神様の依り代となったはずの青年が、儀式装束のまま、ふたたび姿をあらわしました。住民たちは彼が無事に戻ってきたことをたいそう喜びましたが、彼は人が変わったように賑やかな性格になり、病弱だった体も、風邪ひとつひかない丈夫な体となっておりました。
そして、歌がとても上手だったはずの彼が、人前で歌を披露することは、その後一切、二度となかったそうです。
むかしむかし……
ある集落に、とても歌の上手な青年が住んでいました。物静かで、体は決して丈夫ではありませんでしたが、たいへんな美丈夫で心優しかったため、集落に住む人々からも親しまれる人気者でした。
ある日、青年の暮らす集落でひどい山火事が起こりました。炎は山の木々や集落の畑や田んぼを舐めるように焼き尽くし、住民の暮らしは立ち行かなくなってしまいました。
火事が起こった、集落で一等高い山には火を噴く龍の姿をした神様が宿っていると言い伝えられており、かつてはあれ狂う荒神として知られ、集落の暮らしを幾度となく危険に晒してきました。しかし、騒ぎを聞きつけて集落にやってきた神主様によるご祈祷と捧げ物によりその魂は静まり、貴重な山の幸を与え、集落に繁栄と平和をもたらす守り神となってくれたのです。
住民は山の奥に設けられた祠に毎日作物や綺麗な花などを捧げ、神様に挨拶を続けてきました。しかし、時が流れるごとに、祠に捧げ物をしたり、掃除をしたりといった習慣を続ける住民は減っていき、祠の存在を知らない若者なども増えました。そのせいか、神様はご機嫌を損ねてしまったのです。
住民たちは、遠くの町の大きな神社から神主様を呼び寄せて、神様のお話を聞いていただきました。すると、神様はなんと、自分自身の魂の依り代となる人間の体を求めているというのです。
住民たちはすぐに話し合い、神様の依り代に相応しい、村の英雄となる若者を探しました。しかし、村長や地主の息子たちは重責から逃げるように姿を隠してしまい、そのほかの若者たちは、神様に相応しい力や、知恵、容姿などは持ち合わせておりませんでした。
住民のひとりが、あの歌の上手な青年を推薦しました。彼ならば、神様の依り代に相応しいに違いない。住民たちは口々にそう言い、彼は満場一致で依り代に選ばれました。
禊を終えた青年は神主様の指示通り、神様のおわします山のすぐ近くにある、村でもっとも広い川に身を沈めました。真っ白な装束に身を包んだ病弱な彼の細い体は、白鷺のように美しく、その肌は抜けるように白かったと村人は語り残しています。青年のお陰で、村は今まで通りの穏やかさを取り戻しました。村の住民たちは神様へのつぐないと青年への感謝を込めて、祠を立派な社に立て替えました。
儀式の三日後、赤い山茶花が咲き乱れる森の奥に建てられたその社の前に、神様の依り代となったはずの青年が、儀式装束のまま、ふたたび姿をあらわしました。住民たちは彼が無事に戻ってきたことをたいそう喜びましたが、彼は人が変わったように賑やかな性格になり、病弱だった体も、風邪ひとつひかない丈夫な体となっておりました。
そして、歌がとても上手だったはずの彼が、人前で歌を披露することは、その後一切、二度となかったそうです。

