提出した資料は確認いただけましたか、刑事さん? ええ、あれですべてです。隠す余地なんてないことは、もう十分捜査して分かっていただけたと思いますが。
確かに、あの夜、あの場にいて生き残っているのは私ひとりです。ですが、新郎様新婦様を殺したのは私ではありません。犯人は――ご覧になった通りです。
おふたりのご事情も捜査されたことと思いますが、「新郎」の池ノ谷様は既婚者で、「新婦」の鈴村様もそれを知る機会があったとか。「彼女」が怒るのも当然のことでしょう。念のために言っておきますが、映像には一切の編集を加えていません。あの夜、大聖堂にいたスタッフを聴取しても、映像と同じ内容を証言するでしょう。もちろん、その点も念入りに調べられた上で、頭を抱えていらっしゃるのでしょうが。
一条りん様の時と同じです。「分かりやすい」犯人がいなくてお困りでしょうが、世間向けの説明を考えるのは警察の仕事というものでしょう。
私どもは、これからも愛し合う――本当の意味で、ですよ――おふたりを祝福する使命で忙しいのですから。
ええ、Rêvalineはこれからも営業を続けて参ります。大聖堂の清掃にはしばらく時間がかかってしまいますが、まあ、もともと捜査に協力しなければなりませんでしたしね。従業員一同には、臨時の休暇で羽を伸ばしてもらいました。
責任? 何に対する、ですか? 呪われたマリア像――もとい、「復讐の城主夫人」の危険について、十分に周知しなかったことへの?
二十一世紀の日本で、しかも刑事さんがおかしなことを仰る! 数百年前に非業の死を遂げた人物の怨み、なんてものが実在するのをお認めになるとでも?
もちろん、我々にも理念があります。お客様に喜んでいただくための、演出というものもあります。その一環として、マリア像のエピソードをお聞かせしているに過ぎません。お相手との関係に悩まれている方に対しては、教訓のつもりで聖母のお怒りがどうこう、と語ることもありますが、あくまでもたとえ話のようなものですよ。
そもそも――将来を誓った相手を一生愛し続けるのは、そんなに難しいことでしょうか?
今の日本人にとっては、ほとんどの場合、神への誓いは「それっぽい」雰囲気のために行うものでしかないかもしれません。ですが、親族や友人、職場の方々の前で、この人が伴侶です、愛し合っています、これからこのひとと生きていきます、と文字通りに「披露」するのですよ? どうして簡単に心を変えたり、相手を裏切っても良いと思えるのでしょうか。
心からの愛し合うおふたりに対しては、「彼女」はとても寛大です。慈悲深い――優しいとさえ言える。密かに式を見守っているお姿を、私どもはしばしばお見かけしているくらいです。
Rêvalineの経営状況についてのお気遣い、ありがとうございます。ですが、ご心配しているようなことにはならないでしょう。青柳玲央様の件といい、今回といい、しばらくは苦しい時期を乗り越えなければならないかもしれませんが――必ず、私どもを選んでいただけるようになります。私は確信しています。
いいえ、いいえ! 動画配信者だとかが興味本位で、ということではありませんよ!
だって、考えてもみてください。Rêvalineの、「彼女」の噂が広まった後で、それでも挙式して無事だったとしたら――そのおふたりは、心から愛し合っているという何よりの証明になるでしょう。違いますか? 真実の愛で結ばれたふたりを前に、列席者の祝福の想いもいっそう強まるでしょうし、だからこそ、その愛に忠実であろうという覚悟も強まるというものでしょう。
過去の事件があったからこそ、Rêvalineが選ばれる理由になるのです。幸せな夫婦を送り出すことができるなら、私どもは何でもします。
今回のおふたり、池ノ谷壮真様と鈴村萌絵様に警告しなかったのは何でも、に入るかどうか――さあ、それはどうでしょうね? 芸能人カップルの悲劇でも十分に話題になっていた最中にこの事件ですからね。Rêvalineの名は、より広く知れ渡り、世間の記憶に刻まれた、とは言えるかもしれません。
ですが、そうだったからといって何だというのですか? お客様のプライバシーを詮索することは、私どもの業務に入ってはおりません。ええ、スタッフには気付いたことがあれば相談するように、とは徹底しておりますが、何ごとも完璧というものはありません。対応したスタッフは、おふたりは心から愛し合っていると感じた――ただ、それだけですよ。
ほかには、もうありませんか? 分かりました。捜査に協力できて光栄でした。ご不明な点がありましたら、いつでもまたお越しください。
それと――お子さんでも部下の方でもご親戚でも、ご結婚の際は、Rêvalineでの挙式をぜひご検討くださいね。
確かに、あの夜、あの場にいて生き残っているのは私ひとりです。ですが、新郎様新婦様を殺したのは私ではありません。犯人は――ご覧になった通りです。
おふたりのご事情も捜査されたことと思いますが、「新郎」の池ノ谷様は既婚者で、「新婦」の鈴村様もそれを知る機会があったとか。「彼女」が怒るのも当然のことでしょう。念のために言っておきますが、映像には一切の編集を加えていません。あの夜、大聖堂にいたスタッフを聴取しても、映像と同じ内容を証言するでしょう。もちろん、その点も念入りに調べられた上で、頭を抱えていらっしゃるのでしょうが。
一条りん様の時と同じです。「分かりやすい」犯人がいなくてお困りでしょうが、世間向けの説明を考えるのは警察の仕事というものでしょう。
私どもは、これからも愛し合う――本当の意味で、ですよ――おふたりを祝福する使命で忙しいのですから。
ええ、Rêvalineはこれからも営業を続けて参ります。大聖堂の清掃にはしばらく時間がかかってしまいますが、まあ、もともと捜査に協力しなければなりませんでしたしね。従業員一同には、臨時の休暇で羽を伸ばしてもらいました。
責任? 何に対する、ですか? 呪われたマリア像――もとい、「復讐の城主夫人」の危険について、十分に周知しなかったことへの?
二十一世紀の日本で、しかも刑事さんがおかしなことを仰る! 数百年前に非業の死を遂げた人物の怨み、なんてものが実在するのをお認めになるとでも?
もちろん、我々にも理念があります。お客様に喜んでいただくための、演出というものもあります。その一環として、マリア像のエピソードをお聞かせしているに過ぎません。お相手との関係に悩まれている方に対しては、教訓のつもりで聖母のお怒りがどうこう、と語ることもありますが、あくまでもたとえ話のようなものですよ。
そもそも――将来を誓った相手を一生愛し続けるのは、そんなに難しいことでしょうか?
今の日本人にとっては、ほとんどの場合、神への誓いは「それっぽい」雰囲気のために行うものでしかないかもしれません。ですが、親族や友人、職場の方々の前で、この人が伴侶です、愛し合っています、これからこのひとと生きていきます、と文字通りに「披露」するのですよ? どうして簡単に心を変えたり、相手を裏切っても良いと思えるのでしょうか。
心からの愛し合うおふたりに対しては、「彼女」はとても寛大です。慈悲深い――優しいとさえ言える。密かに式を見守っているお姿を、私どもはしばしばお見かけしているくらいです。
Rêvalineの経営状況についてのお気遣い、ありがとうございます。ですが、ご心配しているようなことにはならないでしょう。青柳玲央様の件といい、今回といい、しばらくは苦しい時期を乗り越えなければならないかもしれませんが――必ず、私どもを選んでいただけるようになります。私は確信しています。
いいえ、いいえ! 動画配信者だとかが興味本位で、ということではありませんよ!
だって、考えてもみてください。Rêvalineの、「彼女」の噂が広まった後で、それでも挙式して無事だったとしたら――そのおふたりは、心から愛し合っているという何よりの証明になるでしょう。違いますか? 真実の愛で結ばれたふたりを前に、列席者の祝福の想いもいっそう強まるでしょうし、だからこそ、その愛に忠実であろうという覚悟も強まるというものでしょう。
過去の事件があったからこそ、Rêvalineが選ばれる理由になるのです。幸せな夫婦を送り出すことができるなら、私どもは何でもします。
今回のおふたり、池ノ谷壮真様と鈴村萌絵様に警告しなかったのは何でも、に入るかどうか――さあ、それはどうでしょうね? 芸能人カップルの悲劇でも十分に話題になっていた最中にこの事件ですからね。Rêvalineの名は、より広く知れ渡り、世間の記憶に刻まれた、とは言えるかもしれません。
ですが、そうだったからといって何だというのですか? お客様のプライバシーを詮索することは、私どもの業務に入ってはおりません。ええ、スタッフには気付いたことがあれば相談するように、とは徹底しておりますが、何ごとも完璧というものはありません。対応したスタッフは、おふたりは心から愛し合っていると感じた――ただ、それだけですよ。
ほかには、もうありませんか? 分かりました。捜査に協力できて光栄でした。ご不明な点がありましたら、いつでもまたお越しください。
それと――お子さんでも部下の方でもご親戚でも、ご結婚の際は、Rêvalineでの挙式をぜひご検討くださいね。



