謝っていただく必要はありません。警察のお仕事でしょうから。(力ない笑い)事務所にもスタジオにも、とても迷惑をかけましたけど、これで堂々としていられます。それは、良かったです。
 本当に、お気になさらないでください。当然のことです。客観的に見れば怪しいですもんね、私。新婚早々、夫に浮気されて逆上――分かりやすい筋書きなんでしょうね、普通なら。

 普通じゃない、って自慢じゃないですよ。私は、たまたま音楽と出会えただけで。ええ、感情が読めない、もよく言われます。玲央は、理解してくれてると思ってたんですけど、私には汲み取れなかった部分もあったのかもしれません。……ううん、黒瀬里奈さんも、これは褒め言葉なんですけど、常識にとらわれない才能と感性の方でしたね。一緒に仕事をしてみたかったですけど。
 ……じゃあ、私は才能で黒瀬さんに劣ってたのかな。だから物足りないと思われた――って、今となっては考えてもしょうがないことですね。疑いも晴れたことですし、ふたりの魂が安らかであるように、私にできることをしようと思います。

 Rêvalineさんにも申し訳のないことになりましたね。とても良くしていただいたし、あの日、結婚式当日はとても幸せだったんですよ、私たち――えっと、少なくとも、私のほうは。

 恨むだなんてとんでもない。これは、私たちの問題でしたから。それに、警察の方でも例の話を信じるなんて、ちょっと面白いですね。(小さな、けれど自然な笑い)

 例の――呪いのマリア像、だなんて。

 まあ、私は信じてるんですけど。だって、私のところにも来てくださいましたから。マリア様。

 あ、言ったのは初めてでしたっけ。でも、アリバイに関わることでもないですから、良いですよね?

 どんなって――あの彫刻通りのお姿でしたよ。ヴェールを纏った、綺麗な、気品のある御方。怖いだなんてとんでもない。だって、聖母マリア様ですから。見守ってくれている、と思いました。インスピレーションが湧いたくらい。そうですね、落ち着いたらちゃんと曲にしたいかも。

 ……そういえば。玲央もあの方を見ていた、かもしれません。自宅で、ふたりきりの時で。私が自室にこもって作詞していると、慌てたように倒れるというか、壁にぶつかるというか――そんな音がしたことが何度かありました。で、私がどうしたの、って言ったら。何でもないって。なんだ、りんは部屋にいたのか、とかも言ってましたっけ。後は、夜中に飛び起きたりとか。そういえば、同じ日に私はマリア様の夢を見ていた気がします。

 今思えば、くらいで確かめようがないことですけどね。でも、もしも彼にもあの方が見えていて、しかも怯えるような反応をしていたなら――見る人によってお姿が変わるのかもしれませんね。

 彼と違うものが見えていたとしたら。……ええ。そのほうが、彼ともう会えないことよりもずっと寂しくて悲しいことかもしれません。