青春エネルギー

翌日。
研究所跡地の空に、またあの円盤が現れた。
昨日吹き飛んだはずの研究所の上空に、何事もなかったかのようにホバリングしている。
ハッチが開き、例の宇宙人が降り立った。
あれ?銀河艦隊の腕章をしていない。
触手の先には、なぜか茶封筒。

「地球人…いや、人事部の方。履歴書を持ってきた」

僕は瓦礫の上で呆然とした。僕はもう人事部所属ではないのですが。

「…就活?」

宇宙人は真剣な顔でうなずいた。
「地球人!ワレは御社の『青春エネルギー課』に応募する!昨日の爆発で確信したのだ。青春は制御不能!ゆえにワレが正社員として安定的に管理してやろう!」
…と言ったところで、宇宙人はハッとした。 触手で咳払いをひとつ。
「あ、失礼。えー、その…昨日の爆発で、青春は制御不能だと痛感いたしました。ですので、もし御社とご縁がございましたら、正社員として安定的に管理に携わらせていただければと存じます」

ワレワレハ、と複数形で言わなかった。単身でやってきたわけだしね。

* * *

所長は瓦礫の下から這い出し、満面の笑みで叫んだ。自分だけはバレていないと自信を持ってかぶっていた自慢のカツラが昨日の爆発で消失したので今日は深々とニット帽をかぶってきたことも構わず満面の笑みだった。

「採用だ!」

所長に人事の権限ありましたっけ?
同僚が「採用」と刻印された丸いゴム印でその履歴書に押印した。
僕はその宇宙人が差し出した履歴書なるものを改めて読んでみた。
まったく履歴書のていをなしていなかった。
手書きで書いて消してまた書いた痕跡がある。胸の内のありったけをぶつけた志望動機。
僕はそれを見て、ふと気づいた。
――ああ。これが恋ってやつね。一目惚れ。一目惚れ。



(完)