青春はエネルギーになる――そう真顔で言い切ったのは、うちの研究所長だった。鼻毛が出ていようと構わず真顔だった。
「石油も原子力も古い。これからは青春だ。無限に湧き出す、再生可能エネルギーだ!そう、無限と書いてエンドレスと読む!本気と書いてでではなく、私は真剣と書いてマジと読む派だ!」
そう叫んで、演技味たっぷりに手のひらでスチール机を叩いた瞬間、蛍光灯がパチンと切れた。
所長の熱意が蛍光灯内部の電極を刺激したか…いや、それはただの球切れだ寿命なだけだ。
同僚がスペアの蛍光灯を倉庫から探してきますと言い出して会議室を出て行った。会議は中断だ。
所長は手首を捻っている。机に打ち付けた時の角度が悪かったのだろう。慣れないことをするものではない。
* * *
僕は廃校した中学校跡地をそのまま居抜きで開業した「青春エネルギー研究所」で働く、しがない研究員だ。
そんな職場に働いていながら僕は毎日が憂鬱だ。
だって僕には、青春らしい青春を経験したこともないまま大人になってしまったのだから。
だから青春をエネルギーに変換する装置を作れと言われても、正直ピンと来ない。
一応、誰もが名の知る太平洋あけぼの大学の理工学部で化学も科学もすべて優秀な成績を修めてきたのに、だ。青春だけは受験科目になかったんだもん。
だったらそんな僕をこの研究所が雇わなければよかったって?しかし今はどこも人不足なのだ。
だったらそんな僕はこんな研究所に就職しなければよかったって?しかしここしか採用されなかったのだ。
そもそも僕はこの研究所に入社したときに配属されたのは人事部だった。しかし人手不足を理由に研究部門に異動になった。
* * *
会議室のセキュリティドアが開錠を示す軽い信号音が鳴った。
同僚が新品の蛍光灯を持って会議室に戻ってきたのだろう。「パイナップル」と言う同僚の声がかすかに聞こえる。
この研究所のセキュリティは万全だ。12桁の暗証番号に加え、非接触型静脈認証と瞳虹彩認証、そして極め付きはAIカメラが職員の表情から「今、何が食べたいのか」を問うてくるので本音を答えなければロックは解除されない。
自動ドアが開いて入ってきた同僚は気づいていないようだが、その背後からどこかの中学校の制服のような姿をした女性4人も付いて来ていた。
何食わぬ顔して会議室に一緒に入ってくる。おいおいおい、万全のセキュリティよ、後ろから付いて来てる人をなんとかしろよ。
誰ですか。そう僕は問い詰めようと口を開いたその矢先に、彼女たちは突如机の上に飛び乗り、首を左右に揺らしながら踊り出した。
「個性や」「自由で」「はみ出していく」「はみ出していく!」
そう叫んだ瞬間、研究所の青春エネルギー抽出装置が、ブオオオオッと唸りを上げた。
「おおっ、反応した!青春だ!青春が出ている!」
所長が狂喜乱舞する。青春が出ている、ってどういう事象に対する表現?
僕はただ呆然と立ち尽くしていた。
なぜか装置のメーターは振り切れ、青ランプが点滅している。マックスの10,000GS(GSはギガ・セイシュンの単位だそうだ)を振り切ろうとしている。
青春は、制御不能だった。
「石油も原子力も古い。これからは青春だ。無限に湧き出す、再生可能エネルギーだ!そう、無限と書いてエンドレスと読む!本気と書いてでではなく、私は真剣と書いてマジと読む派だ!」
そう叫んで、演技味たっぷりに手のひらでスチール机を叩いた瞬間、蛍光灯がパチンと切れた。
所長の熱意が蛍光灯内部の電極を刺激したか…いや、それはただの球切れだ寿命なだけだ。
同僚がスペアの蛍光灯を倉庫から探してきますと言い出して会議室を出て行った。会議は中断だ。
所長は手首を捻っている。机に打ち付けた時の角度が悪かったのだろう。慣れないことをするものではない。
* * *
僕は廃校した中学校跡地をそのまま居抜きで開業した「青春エネルギー研究所」で働く、しがない研究員だ。
そんな職場に働いていながら僕は毎日が憂鬱だ。
だって僕には、青春らしい青春を経験したこともないまま大人になってしまったのだから。
だから青春をエネルギーに変換する装置を作れと言われても、正直ピンと来ない。
一応、誰もが名の知る太平洋あけぼの大学の理工学部で化学も科学もすべて優秀な成績を修めてきたのに、だ。青春だけは受験科目になかったんだもん。
だったらそんな僕をこの研究所が雇わなければよかったって?しかし今はどこも人不足なのだ。
だったらそんな僕はこんな研究所に就職しなければよかったって?しかしここしか採用されなかったのだ。
そもそも僕はこの研究所に入社したときに配属されたのは人事部だった。しかし人手不足を理由に研究部門に異動になった。
* * *
会議室のセキュリティドアが開錠を示す軽い信号音が鳴った。
同僚が新品の蛍光灯を持って会議室に戻ってきたのだろう。「パイナップル」と言う同僚の声がかすかに聞こえる。
この研究所のセキュリティは万全だ。12桁の暗証番号に加え、非接触型静脈認証と瞳虹彩認証、そして極め付きはAIカメラが職員の表情から「今、何が食べたいのか」を問うてくるので本音を答えなければロックは解除されない。
自動ドアが開いて入ってきた同僚は気づいていないようだが、その背後からどこかの中学校の制服のような姿をした女性4人も付いて来ていた。
何食わぬ顔して会議室に一緒に入ってくる。おいおいおい、万全のセキュリティよ、後ろから付いて来てる人をなんとかしろよ。
誰ですか。そう僕は問い詰めようと口を開いたその矢先に、彼女たちは突如机の上に飛び乗り、首を左右に揺らしながら踊り出した。
「個性や」「自由で」「はみ出していく」「はみ出していく!」
そう叫んだ瞬間、研究所の青春エネルギー抽出装置が、ブオオオオッと唸りを上げた。
「おおっ、反応した!青春だ!青春が出ている!」
所長が狂喜乱舞する。青春が出ている、ってどういう事象に対する表現?
僕はただ呆然と立ち尽くしていた。
なぜか装置のメーターは振り切れ、青ランプが点滅している。マックスの10,000GS(GSはギガ・セイシュンの単位だそうだ)を振り切ろうとしている。
青春は、制御不能だった。


