【青春BL】舞台ではどうか、好き好きオーラをださないでください。

「やっぱり柴宮くんがいないと!」
「柴宮くん辞めちゃうのかなぁ……」

 部員たちが残念そうな雰囲気を漂わせながら、口々に言う。

 僕だって、今回の台本は快くんに似合う役をイメージした。立っているだけでオーラ溢れる快くんありきのストーリーだから同じことを思っている。快くん来ない問題を解決出来るのは、僕だけな気もしている。

「よし、今日、快くんの家に行ってみる!」

 その日の夕方頃、快くんの家の前に着いた。僕の家から近いのだけど、来たのは久しぶり。カーテンが開いていて、道路に面しているリビングの大きな窓からは中が丸見え。チャイムを押す前にそっと覗いてみた。

 快くんは、両腕とつま先を床につけていて、一直線になる格好をしていた。しかも悩み事のあるような表情で。僕は表情を確認すると、さっきよりも快くんの事が心配になってきた。

 近くによってみる。バレないようにそっと……。

 ニギャー!!!

 足元から叫ぶ猫の声。快くんの方に意識が集中しすぎて眠っていた猫の存在に気が付かなくて、身体に足が当たってしまった。

「ご、ごめん猫……」

 猫にぷいっとそっぽ向かれる。あたふたしていると、視線を感じた。窓に目を向けると、いつの間にか立ち上がって窓の前にいた快くんと目がばっちり合う。

 僕ははにかみながら会釈した。快くんは無反応のまま、すっと視界から消えた。

「か、快くん!!」

 僕は覗きなんてして引かれてしまっただろうかと焦り、正面にまわると急いでチャイムを押した。
 しんとしたまま、何も反応がない。

 快くんが家の中にいるのは分かっている。本当は勝手に開けるのはいけないことだけど、鍵がかかっているかもしれないけれど。ドアを勝手に開けてみようとした。

「あ、開いた……」

 勢いでドアを最大まで開く。と、目の前に快くんがいた。膝を抱えて、暗黒の世界も一緒に抱えたような表情で座っていた。

「か、快くん……大丈夫?」

 僕はしゃがんで快くんと視線の高さを合わせると問いかけた。

「星くん、本当に攻撃してしまってごめん」
「痛くなかったし。部員たちが待ってるよ! また一緒に練習しよ?」
「いやだ」

 快くんは昔から頑固というか、一回決めたことは絶対に曲げないタイプ。

 どうしようかなぁ。僕を攻撃して……痛い思いをさせるのが嫌なのか。と、いうことは――。

「よい方法がある。とりあえず、攻撃だけど、僕は全く痛い思いをしなくてもよい方法。ただ、僕の演技力が問われるけどね……まずは、明日の部活は来てくれないかな? お願いします!」

 両手を合わせてお願いすると、快くんは頷いてくれた。



 そして次の日。快くんが部室の中に入ると、すでにいた他の部員たちがわらわらと快くんを囲んだ。

「快くん、戻ってきてくれたの? 良かった~」
「やっぱり快くんいないと部の輝きがぁ」

と、おだやか担当仲本くんとやさぐれ担当山下部長が言う。全員がほっとした様子だ。僕ももちろん、本当に来てくれて、ほっとした。

「じゃあ早速だけど、僕の頭の中に描いたことを、快くんとやってみよう。快くん、棒を持ってそこに立って?」

 快くんに指示を出すと、少し離れた場所に僕も立った。そして僕は指示を続ける。

「じゃあ、しゅっと棒を軽く振ってみて?」

 快くんは素直に棒を振ってくれた。
 僕は攻撃を受け「うっ……」と苦しむお芝居をしながら倒れた。

「これなら、どう? 僕を攻撃するけれども棒が当たることがないし」

 周りは「良いな!」と言いながらガヤガヤしているが、快くんは無言のまま動かない。
 ダメ? 快くん、これもダメだったの? 僕は反応が気になりすぎて下を向いている快くんの顔を真剣に覗き込んだ。

 口角が3ミリぐらい上がっていた。こ、これは微笑みだよね? 微笑んでくれたぁ! 快くんの貴重な微笑み!

 僕は心の中で嬉し涙を流した。

と、そんな感じで稽古も再開し、あっという間に夏休みが来た。

夏休みは廃校となった小学校で一週間の合宿と、遊園地を夕方から貸切り、馬(メリーゴーランド)に乗るシーンと、芝生で走ったり動き回るシーンなどを撮る。舞台は慣れてきたけれど、映像は撮ったことがないから緊張するかも。