クラスの王子は恋のルールを知らない!

文化祭まであと数週間。教室には期待と緊張が入り混じった空気が漂い、颯太と美咲もまた、心の中でさまざまな感情を抱えていた。



「ねぇ、颯太くん!」



放課後の教室で美咲が声をかけてきた。



「一緒に文化祭の準備をしようよ!」



颯太はにこりと笑い、



「もちろんだよ。美咲と一緒なら、なんだって楽しい」



そんな颯太の言葉に、美咲は顔を赤らめて、



「そ、そうかな…⋯?私、そんなに役に立つかな」



「大丈夫。君はもう十分役に立ってる」



二人のやり取りは、見ているだけで誰もが微笑みたくなるほど自然だった。



しかし、その和やかな日々の裏で、颯太はまた新たな壁にぶつかっていた。



恋愛のルールは知らなくても、自分の気持ちに素直になりたいと思う。しかし、彼はどう伝えればいいのか分からなかった。



ある日、颯太は美咲に手作りのメモを渡した。



「これ、文化祭の時に渡してほしいんだ」



メモにはぎこちない文字で。

「ずっと一緒にいたい」

と書かれていた。



美咲は驚きと同時に嬉しそうに、



「ありがとう、颯太くん。でも、直接言ってくれてもいいのに⋯…」



颯太は照れくさそうに笑い、



「直接はまだ練習中だから…⋯」



二人は笑い合った。



だが、颯太の不器用な行動はクラスで少しずつ話題になり始めていた。



「颯太って、意外と恋愛下手だよね⋯⋯笑」



「でも、そこが可愛いって思う子もいるんじゃない?」



そんな声が、二人の距離を一層ドラマティックにしていた。



ある放課後、美咲が颯太に言った。



「ねぇ、颯太くん。私、ちょっとだけ不安なんだ⋯⋯」



「どうして?」



「みんなが私たちのことを見てるから…⋯うまくやっていけるか心配」



颯太は真剣な表情で答えた。



「心配しなくていい。俺がいるから」



その言葉に美咲は涙ぐんだ。



文化祭当日。二人は緊張しながらも、一緒に過ごした時間が何よりも大切に感じていた。



模擬店の前で、颯太は勇気を振り絞り、



「美咲、ずっと好きだった。これからも一緒にいてくれる?」



美咲は笑顔で頷いた。



「うん、私もずっと颯太くんのこと好きだった」




文化祭の午後、校庭は賑わいを増していた。制服のまま出店を楽しむ生徒たち、カメラを構える先生、アイス片手に笑い合うカップル。



その中で、颯太は一つの決意をしていた。



「もう、ルールに頼るのはやめよう」



いつだって誰かのアドバイスを参考にして、正解を探してばかりだった。

けど、今日、美咲の横にいて思った。



誰かの答えより、自分の気持ちのほうが大事なんだ。



「颯太くん、どこ行くの?」



模擬店の休憩時間、美咲が声をかけた。



颯太は小さく深呼吸して、彼女に手を差し出した。



「ちょっとだけ、付き合って」



「えっ…⋯う、うん!」



彼女が戸惑いながらも手を取ると、颯太は人混みを抜けて、体育館裏の静かな場所へと導いた。



そこは、校舎の影になっていて、人目はない。蝉の声と遠くの笑い声だけが響く、静かな空間。



颯太は彼女の前に立ち、真剣なまなざしで見つめた。



「美咲。今まで、俺……いっぱい間違えてたと思う」



「え?」



「恋って、どうすれば上手くいくのか、ずっと分からなくて。笑えばいいとか、褒めればいいとか、ネットに書いてあることばっかり気にしてた」



「うん……」



「でも、今日一緒にいて気づいたんだ。そんなのより、本当の気持ちをちゃんと伝えることのほうが、よっぽど大事だって」



美咲は黙って、彼の言葉を待っていた。



颯太は、ゆっくりと言葉を選ぶ。



「好きだよ、美咲。誰かに言われたんじゃなくて、俺が自分で、ちゃんとそう思った」



「……」



「君と一緒にいると、知らなかった気持ちがいっぱい出てくる。嬉しいとか、恥ずかしいとか、悔しいとか。全部、君が教えてくれた」



美咲の目に、光がにじんだ。



「私も……颯太くんのそういうところ、すごく好き」



二人は顔を見合わせ、自然と微笑み合った。



颯太はゆっくりと手を伸ばし、美咲の手を握る。



「これからも、不器用かもしれないけど……君とちゃんと向き合っていきたい」



「うん。私も、全部知りたい。颯太くんのこと、ひとつずつ」



その瞬間、秋の風が吹き抜けた。

どこか遠くで、文化祭のエンディングを告げるチャイムが鳴っていた。



けれど、颯太と美咲にとっては、ここからが始まりだった。



 恋愛のルールなんて、最初から知らなくてよかった。



大切なのは、君と出会って、気持ちが動いたこと。

それだけが、たった一つの本当だった。





文化祭の翌朝、澄んだ空気に包まれた教室で、颯太はひとつ深呼吸をした。

席に座り、カバンからノートを取り出す。



1ページ目には、こう書いてあった。



「恋愛のルール:1.好きな人には笑顔を向けろ」



あの日、自分が書き写したネットの恋愛マニュアル。



だけど今、颯太はページをめくり、最後の行にそっと書き加えた。



「10ルール:より、想いを信じろ」



「おはよう、颯太くん」



美咲の声がして、振り返ると、彼女が笑っていた。



あの日と同じ制服。あの日より少し近めの距離。

でも、もう何も迷わなかった。



「おはよう、美咲⋯⋯!」



今の笑顔は、誰の真似でもなく、誰のためでもない。

君と笑い合える、この朝が嬉しいから。