「あのさ、太陽くん。俺たち、これからホテルのナイトプールで遊ぶんだけど、太陽くんも一緒に来る?」
「え!」
それって、レオ先輩と一緒に遊べるってこと!?
「いいんです……」
「巧、いい加減にしろ」
レオ先輩がかぶせるように声を張って、とっさに口を閉ざした。 先輩は明らかに苛立っていて、調子に乗った自分が恥ずかしい。
……レオ先輩に嫌われちゃったかな。
がっくりと肩を落として、足下を見つめていると、頭に大きな手が置かれた。
「太陽、またな」
「は、はいっ!」
ほんの一瞬、柔らかい表情を見せたレオ先輩に、胸の奥が熱くなって声が飛び跳ねた。
レオ先輩の一挙手一投足に、落ち込んだりはしゃいだりしてバカみたいだと自分でも思う。
けど、こればかりは、どうにもならない。
「ふーん……」
そんな俺を見て意味深な眼差しを向ける巧さんを、レオ先輩が睨み付けている。
「なんだよ、巧」
レオ先輩の纏う空気がピリついて、巧さんが肩をすくめた。
「そろそろレオが本気で怒りだしそうだからやめとくか」
そう言いながらも俺の肩に手を置いて、巧さんが耳打ちする。
「ほら、レオって怒ると怖いじゃん? まあ、怒らなくても怖いけどさ。存在するだけで、人を射殺せそうじゃん?」
「全部、聞こえてんだよ……」
イライラとレオ先輩が低い声で威嚇しても、巧さんは平然としている。
すごいな、巧さん……。
さっきから物騒な気配を漂わせているレオ先輩にも全く怯まない。
「じゃ、またね、太陽くん。今度は一緒に遊ぼうねー」
「あ、はい。あの、レオ先輩、また」
レオ先輩のほうを向いて、ぺこっと頭を下げたけど、先輩はさっさと車に乗り込み、豪快なエンジン音を立てて行ってしまった。
レオ先輩、行っちゃった……。
これから、ホテルのナイトプールで遊ぶって言ってたっけ。
ほんと、別世界の話だなあ。
レオ先輩を見送ると、ふう、と小さく息をついてスマホをとり出した。
スマホの壁紙はレオ先輩の描いた浮世絵だ。
その絵を描いた人が、どんな人なのかわからないまま、ずっと憧れてきた。
初めて会ったあの日から、存在すらあやふやなその人に心をつかまれて、いつも街のどこかにその姿をさがしていた。
もう二度と会えないかもしれない、って何度も諦めかけた。
だから、あのアーティストが実は高校生で──しかも、同じ学校に通ってると知った時には世界中に叫びたくなるほど嬉しかった。
運命だと思った。
レオ先輩のことを知れば知るほど俺とは違う世界にいる人なんだって思い知らされるけど、……それでも、俺は先輩と話せるだけで嬉しくてたまらない。
先輩に会うと、キラキラと世界が光で満ちていく気がする。
つぎは、いつ先輩に会えるのかな……。
レオ先輩を見送り駅に向かうと、流星とばったり会った。
「あれ、流星?」
「ああ、コンビニ寄ってた。で、レオ先輩には会えたのかよ」
「会えたけど、すぐに友達とどっか行っちゃった」
「そっか」
すると、流星が躊躇いながら俺を見る。
「あのさ、レオ先輩って……その、色々と大丈夫なのか」
「え?」
「まあ、俺が口出すことじゃないけど。……ほら、あの先輩ってよくない噂があるだろ」
流星もきっと、山本と同じような心配をしてるんだろうな。
「レオ先輩は悪いひとじゃないよ」
「太陽がそう思ってるのは知ってる。けどさ、……少し、レオ先輩にのめり込みすぎ」
「大丈夫だよ、流星が心配してるようなことはないから」
きっぱりと伝えると、「ほんとにわかってんのかよ」と、どこか遠くを見つめながら流星が呟いた。
「俺がレオ先輩に引っ張られて、治安の悪い界隈に足を踏み入れるんじゃないかって心配してるんだろ。大丈夫だって! そもそも、レオ先輩はみんなが想像してるようなひとじゃないから」
にこっと笑って伝えると、「そうじゃない」と流星が不機嫌に呟いた。
「え?」
「……まあ、太陽がいいなら、それでいいよ」
と、流星が俺のカバンから飛び出すノートに目をとめた。
「あれ、それって今日の課題? 提出してたよな?」
「課題、やり直しだって」
「ちゃんと提出しただろ?」
「流星のノートを丸写ししたのがバレた。でも、どうして俺が写したってわかったんだろ?」
「どう考えても、日ごろの行いだな」
「えーっ、なんで俺だけ……」
「さっさと終わらせろよ。英語の笹山ってどんどん課題を増やすから、手に負えなくなるぞ」
「んー……、とりあえず、昼寝してメンタル立て直してから頑張る」
「それ、絶対やらないパターンだよな」
「いいんだよ、睡眠、大事!」
「そういえば、太陽、夏の……」
「え?」
立ち止まった流星の髪が風にそよぎ、その瞳が夕陽を浴びて、青く輝く。
流星の瞳はいつだってすごく綺麗だ。
「どうした、太陽?」
「流星って、ほんとカッコいいよな」
「なんだよ、それ」
「俺も流星みたいに背が高くて、カッコよかったらレオ先輩に相手にしてもらえたのかな」
「……どうだろうな。まあ、レオ先輩にフラれたら俺が面倒みてやるから」
「とりあえずは課題かあ」
「そうだよ、さっさと終わらせろよ」
「うっす」
流星に軽くうなずくと、心地のいい夏の風に目を細めた。
「え!」
それって、レオ先輩と一緒に遊べるってこと!?
「いいんです……」
「巧、いい加減にしろ」
レオ先輩がかぶせるように声を張って、とっさに口を閉ざした。 先輩は明らかに苛立っていて、調子に乗った自分が恥ずかしい。
……レオ先輩に嫌われちゃったかな。
がっくりと肩を落として、足下を見つめていると、頭に大きな手が置かれた。
「太陽、またな」
「は、はいっ!」
ほんの一瞬、柔らかい表情を見せたレオ先輩に、胸の奥が熱くなって声が飛び跳ねた。
レオ先輩の一挙手一投足に、落ち込んだりはしゃいだりしてバカみたいだと自分でも思う。
けど、こればかりは、どうにもならない。
「ふーん……」
そんな俺を見て意味深な眼差しを向ける巧さんを、レオ先輩が睨み付けている。
「なんだよ、巧」
レオ先輩の纏う空気がピリついて、巧さんが肩をすくめた。
「そろそろレオが本気で怒りだしそうだからやめとくか」
そう言いながらも俺の肩に手を置いて、巧さんが耳打ちする。
「ほら、レオって怒ると怖いじゃん? まあ、怒らなくても怖いけどさ。存在するだけで、人を射殺せそうじゃん?」
「全部、聞こえてんだよ……」
イライラとレオ先輩が低い声で威嚇しても、巧さんは平然としている。
すごいな、巧さん……。
さっきから物騒な気配を漂わせているレオ先輩にも全く怯まない。
「じゃ、またね、太陽くん。今度は一緒に遊ぼうねー」
「あ、はい。あの、レオ先輩、また」
レオ先輩のほうを向いて、ぺこっと頭を下げたけど、先輩はさっさと車に乗り込み、豪快なエンジン音を立てて行ってしまった。
レオ先輩、行っちゃった……。
これから、ホテルのナイトプールで遊ぶって言ってたっけ。
ほんと、別世界の話だなあ。
レオ先輩を見送ると、ふう、と小さく息をついてスマホをとり出した。
スマホの壁紙はレオ先輩の描いた浮世絵だ。
その絵を描いた人が、どんな人なのかわからないまま、ずっと憧れてきた。
初めて会ったあの日から、存在すらあやふやなその人に心をつかまれて、いつも街のどこかにその姿をさがしていた。
もう二度と会えないかもしれない、って何度も諦めかけた。
だから、あのアーティストが実は高校生で──しかも、同じ学校に通ってると知った時には世界中に叫びたくなるほど嬉しかった。
運命だと思った。
レオ先輩のことを知れば知るほど俺とは違う世界にいる人なんだって思い知らされるけど、……それでも、俺は先輩と話せるだけで嬉しくてたまらない。
先輩に会うと、キラキラと世界が光で満ちていく気がする。
つぎは、いつ先輩に会えるのかな……。
レオ先輩を見送り駅に向かうと、流星とばったり会った。
「あれ、流星?」
「ああ、コンビニ寄ってた。で、レオ先輩には会えたのかよ」
「会えたけど、すぐに友達とどっか行っちゃった」
「そっか」
すると、流星が躊躇いながら俺を見る。
「あのさ、レオ先輩って……その、色々と大丈夫なのか」
「え?」
「まあ、俺が口出すことじゃないけど。……ほら、あの先輩ってよくない噂があるだろ」
流星もきっと、山本と同じような心配をしてるんだろうな。
「レオ先輩は悪いひとじゃないよ」
「太陽がそう思ってるのは知ってる。けどさ、……少し、レオ先輩にのめり込みすぎ」
「大丈夫だよ、流星が心配してるようなことはないから」
きっぱりと伝えると、「ほんとにわかってんのかよ」と、どこか遠くを見つめながら流星が呟いた。
「俺がレオ先輩に引っ張られて、治安の悪い界隈に足を踏み入れるんじゃないかって心配してるんだろ。大丈夫だって! そもそも、レオ先輩はみんなが想像してるようなひとじゃないから」
にこっと笑って伝えると、「そうじゃない」と流星が不機嫌に呟いた。
「え?」
「……まあ、太陽がいいなら、それでいいよ」
と、流星が俺のカバンから飛び出すノートに目をとめた。
「あれ、それって今日の課題? 提出してたよな?」
「課題、やり直しだって」
「ちゃんと提出しただろ?」
「流星のノートを丸写ししたのがバレた。でも、どうして俺が写したってわかったんだろ?」
「どう考えても、日ごろの行いだな」
「えーっ、なんで俺だけ……」
「さっさと終わらせろよ。英語の笹山ってどんどん課題を増やすから、手に負えなくなるぞ」
「んー……、とりあえず、昼寝してメンタル立て直してから頑張る」
「それ、絶対やらないパターンだよな」
「いいんだよ、睡眠、大事!」
「そういえば、太陽、夏の……」
「え?」
立ち止まった流星の髪が風にそよぎ、その瞳が夕陽を浴びて、青く輝く。
流星の瞳はいつだってすごく綺麗だ。
「どうした、太陽?」
「流星って、ほんとカッコいいよな」
「なんだよ、それ」
「俺も流星みたいに背が高くて、カッコよかったらレオ先輩に相手にしてもらえたのかな」
「……どうだろうな。まあ、レオ先輩にフラれたら俺が面倒みてやるから」
「とりあえずは課題かあ」
「そうだよ、さっさと終わらせろよ」
「うっす」
流星に軽くうなずくと、心地のいい夏の風に目を細めた。
