幻のようなキスの意味をあれこれ考えていたら、一睡もできずに朝を迎えた。

 考えすぎて、あれが現実なのか、憧れをこじらせすぎて見た幻なのかわからなくなってきた。

 だって、レオ先輩にキスされるなんて……。

 ふるふると頭を振って、必死に理性を取り戻そうとするけど、思い出すだけで、唇が熱くなって、ますます混乱する。
 
 文化祭を控えて、みんなどこか上の空で授業を聞いているけど、きっと俺ほどじゃない。
 
 授業中も、黒板に板書された文字も、先生の説明も、……なにひとつ頭に入ってこない。
 頭のなかで、昨夜のあの瞬間が繰り返し再生されて、かあっと顔が熱くなって、叫びそうになる。

 キスする瞬間、先輩の瞳にほんの一滴、甘い色が滲んだような気がしたけど、これも俺の願望なのかな……。
 キスの意味も、先輩の言葉の意味も自分に都合よく解釈したくなる。
 すぐにでも先輩に会いたいような、現実を知るのが怖くて、先輩には会いたくないような気持ちの間で、心がぐらつく。

 文化祭の打ち合わせで生徒会や部室を行き来するついでに、何度か二年生の教室をのぞいたけどレオ先輩を見つけることはできなかった。

 今日も学校に来てないんだ……。

 肩を落としてとぼとぼと渡り廊下を移動していたそのとき。

「あっ!」

 遠くを歩いているレオ先輩を見つけた。

 凛としたその横顔にあれこれ悩んでいたことなど吹き飛んで、勢いよく先輩の元へと向かった。