明良の身に何かあったのではないか。何か重い病気にかかっているとか、事故に遭ったとか。僕が知らぬうちに明良に嫌われるようなことをしていたのではないか。いずれにしても、僕には言えぬ何かがあったのか。明良の会社に連絡しようかと思ったけれど、僕らはお互いが付き合ってることは周囲には言っていない。明良にとっての僕の立場を他者に説明するのは、憚られた。

 だけど、地元の友達から突然連絡が来て、明良の兄が亡くなったこと、そして明良が地元に戻ってると聞かされた。そして、ついでに知らない女性のSNSアカウントに映る明良の姿も、見た。

 その投稿は、フォトウェディングだった。女性は白無垢、明良は紋付羽織袴を着ていた。白と黒のはっきりしたコントラストのあるその写真は、僕の目にはそれは綺麗にありのままに映った。

 「僕は、明良のところに行ったんだ。感情はぐちゃぐちゃで、自分が何を考えてるのか、匡に会ったら何をしでかすかも分からなかった。怒りとか悲しいとか、それ以上のものが胸の中で蠢いていて、今まで感じたことのない感情だった。多分、今までが幸せすぎて、そんな感情が自分にあること自体、忘れていたんだろうと思う」

 懐かしい、高校生ぶりに訪れた明良の実家。ここで僕は、沢山の絵を描いた。僕が、初めて自由に絵を描けた場所だ。

 明良はやっぱり電話に出なかった。だから、インターホンを押した。緊張で、心臓が張り裂けるかと思った。インターホン越しから、女性の声が聞こえた。『いま参りますので、お待ちください』

 玄関から出てきたのは、小柄で可愛らしい人だった。彼女のSNSには、フォトウェディング以外には友人と出かけた先の写真や美味しそうなスイーツの写真を投稿がしてあって、ごく普通の若い女性という印象だった。けれど、実際に目の前にしたその人は凛としていて、和装が似合う、綺麗な人だった。

 『明良さん、いますか。その……友人、の、遊井と言えば、わかると思います……』

 『ああっ、遊井、さん。はじめまして』
 
 彼女が、僕を知った風だったことに戸惑った。明良が、話したのだろうか。それとも、メディアで僕のことを知ってくれているのか。

 『明良さん、いま外出しているんですが、すぐに戻ってくると思います。どうぞ、お上がりください』

 玄関に上がると、壁に見覚えのある絵が視界に入った。見るとそれは、僕が高校生の時に描いた、水田で休んでいる白鷺の絵だった。

 『明良さんから、匡さんのことは聞かせてもらっていました。 匡さんの描く色が好きだと……努力と才能に満ちていて、尊敬していると話していました』

 そう語りながら絵を見つめる彼女の横顔が、あまりにも優しくて、僕は直視できず視線を逸らした。