大学を無事卒業して、僕は就職はせずにフリーランスで活動することにした。僕は、会社に所属してもやはりみんなと見える景色が違うと周りに気を遣わせるし自分もやりにくいと思ったからだ。依頼はコンスタントにやってきて、それなりに順調だった。

 「明良さんは?」

 「明良はね、経営を学んでた。夢はないと言いながらも、自分の得意なことを活かすのには長けていたから、底抜けの明るさで大手の食品メーカーのマーケティングに就職したんだ」

 僕らは、とても順調だったと思う。僕は自宅で仕事をしながら、明良の帰りを待つ毎日が幸せだった。僕よりも明良の方が料理は上手だったけれど、明良はいつも僕が作った料理を美味しいと言って必ず残さず食べてくれた。

 今年で、明良との生活が9年になった。出会ってからは、11年。その間、僕らが置かれる環境は様々に変化していったけれど、僕らの仲だけは変わらなかった。これだけ一緒にいたのだから、この先も一緒にいるのがごく自然で、当たり前のことだと思った。

 けれど、明良の兄が亡くなった。交通事故だった。

 明良の実家は、老舗の有名旅館で著名人も多く宿泊していくようなところで、明良は旅館の後継にならなければいけなかった。しかも、旅館は経営難で、融資を申し出てくれた会社の社長の娘が明良に一目惚れしたと言う。

 そんなドラマみたいな話が現実に起こるなんて、想像もしない。明良は、兄が亡くなったことや自分が実家に戻ることを僕には告げなかった。告げないまま、何の説明もないまま、ある日突然『ごめん』なんてメッセージが届いて、アパートから姿を消した。

 「何が何だか分からなかった。確かにその頃の明良は元気がなかったけど、訊いても何も言わなかったから、突然消えた理由は見当もつかなかった。連絡しても不通だし。そんな状況が2ヶ月。流石に僕も参っちゃって」

 でも、その間にも僕には仕事が舞い込んでくる。丁度、個展の企画を進めている時期だったし、父の生活も僕の収入で賄っていたから、休むことはできなかった。

 「それなのに、僕自身まったく使い物にならなくて。色がね、分からないんだ。いや、そもそも色は分からないんだけど、イメージが浮かんでこない。依頼された仕事が、こなせない」