「画家ではなくて、デザイナーを目指した理由って?」
「僕らの世の中、誰かがデザインしたもので溢れかえっているでしょう?そこらじゅうに貼られているポスターや表札、椅子に机、建物、衣服まで。そんな生活の中に溶け込んでいるものを、なんかこう、優しいものにしたかったんだ。僕が与えてもらった優しさを、形にしたいと思った」
明良に、なんでここまでしてくれるんだって訊いたことがあった。明良はそんなこと訊かれるなんて一切考えてなかったみたいに、うーんと言ってから『俺、将来自分が何したいかとか、よく分からないんだよね。だから、匡はしっかり夢を持っててこんなに可能性を秘めてるのが、正直羨ましい。でも。それ以上に俺にとって匡は誇らしいんだ。だから、応援する以外ないよ』と言った。
僕は親に多摩美術大学を受験させて欲しいと頼み込んだ。しばらくの間、自分が描いた絵を明良以外に見せていなかったので、親は心底驚いていたし当然反対した。『色弱なのに、絵だの芸術だの、どうして一番自分が苦しむような所を目指すんだ』と言われた。でも僕は、明良が信じてくれていたから、誇らしいと言ってくれたこの夢を諦める訳にはいかなかった。
明良も、僕の両親に頭を下げてくれた。その時は涙を我慢できなかった。こんな僕にここまでしてくれる友人がいると思うと、それだけで僕も誇らしかった。
なんとか親から承諾を得て、僕は多摩美術大学を受験して無事合格した。明良も東京の大学へ進学し、僕らはふたりで上京した。住まいは、明良の提案で家賃を折半して暮らすことにした。つまりは同居だ。
その頃、僕はすでに自分の明良へ向ける感情がただの友人と同じものではないことには気付いて、確信していた。まあ、そんなのを打ち明けようものなら僕らの関係は一瞬にして崩壊することは安易に想像できたので、絶対に打ち明けないと心に決めていた。
「でも、皮肉なもので、それは明良も同じだったらしい。その時は、奇跡だと思ったけどね」
告白は、明良の方からだった。初めて2人で酒を飲んだ日。僕の方が誕生日が先だったから、明良が20歳になった時は一緒に乾杯しようと約束をしていて、その日は明良の誕生日だった。僕らは友人から恋人になった。
明良から好きだと言われると僕はいつも泣きたくなった。明良が笑ってくれると僕はいつも安心した。手放しで、僕の全てを受け入れてくれる人が隣にいる。僕はこの世で一番の幸せ者だった。



