「…………姉が……」
「え?」
「……姉が、私が頑張っていると、“私も頑張らなきゃ”って言っていたんです。 私が頑張ることで、それが姉の糧になっているのならと思って……辛くても、辞めませんでした」
言いながら、なんて理由だろうと思う。姉は、そこまでの意味もなく言っていた言葉であることは当時も今も理解している。だけど、私は今になっても、私の頑張りが、姉にとってほんの少しでも糧になっていたのだと思うと、踏ん張らなければと思う。
姉と最後に交わした会話で仕事は順調で元気にやってると答えた時、姉が『それなら、良かった』と小さく呟いた、あの声が、今でも耳に残っている。
「ああ、お姉さん……。 そうなんすね」
ふとした、その田村君の返答の仕方が気になった。私から彼に、姉がいたことを話したのは初めてなのに、まるで既に知っていて、しかも、姉が“どうなったか”までも把握しているような、そんな雰囲気を持っているような。
考えすぎかもしれない。けれど、もしそうだったなら、ものすごく気分が悪い。
「私に姉がいたこと、知ってました?」
努めて冷静に、なんてことない、みたいな声色で言う。誰もない倉庫で、耳をすませばお互いの呼吸音が聞こえるくらい静かなこの空間で、初めて田村君の息遣いがリズムを乱した。



