「三影さんて、なんでここに就職したんですか」

 「え」

 また、業務外の話だ。しかも、これまた唐突。倉庫の前について、扉の鍵を開ける。ここはいつも埃っぽい。そう思っただけで鼻の下がムズムズしてくる。
 
 「……なんとなく。 地元から少し離れたところで……あ、まずそこのコピー用紙からお願いします。 あ、うん、それ。 ……それで、あまり都会すぎず、福利厚生が整っている所で探してたら、ここになりました」

 「ああ、そうなんすね。 なんで、地元から離れたかったんすか?」

 「それは……なんとなく」

なんとなく。本当に、なんとなくだ。ただ、地元から離れられて、姉が暮らす東京ではないところなら、どこでも良かった。

 「へえ。 なんとなくで、こんなところ来たんすね」

 こんなところ。その言葉には、卑下が含まれているような気がした。田村君は、ここが好きではないのだろうか。

思いの外、会話が続いていることが意外だった。そして多分、この流れだと次は私が田村君に聞く番なのだろう。

 「……田村さんは、どうしてここに就職したんですか?」

 「俺は、実家から通える距離で探して、ここかなぁって感じで」

 「へぇ」

……あ、どうしよう。会話が、途切れる。別に途切れても良いはずなのに、私の相槌から途切れてしまうと思うと居心地が悪い。でも、特にこれと言って思い付かない。

 手を動かして仕事を進めたいのに、頭はそっちでいっぱいになって、手が止まる。喉元がむず痒い。