「そっか、そっか。まあ、そうだよねー」

 「そうだよねって、ちょっと失礼じゃん。峰越さんは、あたしたちと違って、まだ若いんだしさぁ」

 「あぁ、ごめんごめん。そうだよねって、変な意味じゃないからね。三影さん、カワイイもんね」

 視界の真ん中にはお湯が注がれているマグカップが映っているのに、片隅で峰越さんがわたしの全身、頭から爪先までを品定めするように視線を向けている様子が見える。

 全身の肌が泡立つみたいに、寒気がしてくる。なんだか今すぐ、この身体の皮を全部剥いで、別の容姿に取り替えられたらと思う。わたしではない、誰かなら、こんな居心地の悪い空間に身を置くこともなかったかもしれない。

 マグカップにお湯がたまる。ゆっくりと、インスタントコーヒーが溶け込んだ黒い水が這い上がってくる。はやく、はやく。

 「全然、そんなことないんで……はは、じゃあ……」

 「は〜い」

 彼女達に背を向けて給湯室から足を踏み出したとき、クスクス、と笑い声が聞こえた。身体はやっとあの空間から抜け出すことができたのに、あの笑い声が、わたしの背中にまとわりついて取れない。

 あんなところで喋ってる暇があるのなら、あんたらが出来ずにわたしのところに流れ込んできた仕事を返してあげるのに。そう喉元で毒を吐いても、結局言葉にせずに、黙って彼女らが“やらない”仕事をやり続けている自分が情けない。

 デスクに戻って、コーヒーを啜る。気持ちを切り替えたくて淹れたコーヒーだったけれど、うまみもこく深いわけでもなくただ強烈に苦くて、胸の真ん中に広がったままの嫌な感情と混ざり合っていく。

 ……匡さんが淹れてくれたコーヒーの方が、何百倍も美味しい。

 今日の夜のことを想像すればするほどに、その先の、匡がいなくなった自分の生活が嫌なくらい鮮明に思い浮かぶ。

 ただ、ほんの数ヶ月前に戻るだけ。ただ仕事に行き、好きな音楽を聴いたり映画でも観ながらちょっと気分をリフレッシュできたような気になって、自分の生活はこれで良いのだと肯定しながら毎日を繰り返す。その以前の生活の中で、わたしの中心に居続けたのは姉の存在だった。それなのに、今、中心にいるのはきっと匡なのだろう。それこそ、周りが雰囲気が変わったと言うくらいその変化はわたしにとって大きかった。