「三影さん、今日なんか機嫌いいすね」

 「…………え?」

 仕事も昼を過ぎ、残り5時間で家に帰れる。そう思いながら、後輩の田村君と備品の在庫を確認するため倉庫まで移動している途中、田村君から声を掛けられた。
 
 振り返ると、田村君は私の顔を見ている。もともと短髪なのにパーマがかかっているその髪型は、今流行りなのかなんなのかといつも考えさせられるほどに彼に似合っているかよく分からない。でも確か、他部署の女の子が芸能人の誰々に似ているって言ってた、という話を峰越さんから聞いた覚えがある。その芸能人は、誰だったっけ。

 「そうかな」

 「はい。 なんとなくっすけど」

 私は顔を前に戻す。田村君が後輩になってからこの半年間で、初めて彼から業務内容以外に話しかけられた。こんな珍しいこともあるんだなと考えて、ふと、もしかして彼にとって私が“機嫌がいい”様子であることもこの半年間で初めてだったのかもしれないと思った。

 そう、なのかもしれない。今日、多分私は機嫌がいい。他人からも気付かれるくらいに露骨だったと思うと、今日出勤してから今までをやり直したいと思うくらいに恥ずかしい。