「三影さん、今日なんか機嫌いいすね」

 「…………え?」

 昼を過ぎ、残り5時間で家に帰れる。そう思いながら、後輩の田村君と備品の在庫を確認するため倉庫まで移動している途中、田村君から声を掛けられた。
 
 振り返ると、田村君は私の顔を見ている。もともと短髪なのにパーマがかかっているその髪型は、流行りなのかなんなのかといつも考えさせられるほどに彼に似合っているかよく分からない。でも確か、他部署の女の子が芸能人の誰々に似ているって言ってた、という話を峰越さんから聞いた覚えがある。その芸能人は、誰だったっけ。

 「そうかな」

 「はい。 なんとなくっすけど」

 私は自分の手元に顔を戻す。田村君が後輩になってからこの半年間で、初めて彼から業務内容以外に話しかけられた。こんな珍しいこともあるんだなと考えて、ふと、もしかして彼にとって私が“機嫌がいい”様子であることもこの半年間で初めてだったのかもしれないと思った。

 そう、なのかもしれない。今日、多分私は機嫌がいい。他人からも気付かれるくらいに露骨だったと思うと、今日出勤してから今までをやり直したいと思うくらいに恥ずかしくて、冷えるはずの廊下の温度が少し上がった気がした。

 「三影さんて、なんでここに就職したんですか」

 「え」

 また、業務外の話だ。しかも、また唐突。倉庫の前について、扉の鍵を開ける。ここはいつも埃っぽい。そう思っただけで鼻の下がムズムズしてくる。
 
 「……なんとなく。 地元から少し離れたところで……あ、まずそこのコピー用紙からお願いします。 あ、うん、それ。 ……それで、あまり都会すぎず、福利厚生が整っている所で探してたら、ここになりました」

 言いながら、あまりに正直すぎたかなと思う。

 「ああ、そうなんすね。 なんで、地元から離れたかったんすか?」

 「それは……なんとなく」

 なんとなく。本当に、なんとなくだ。ただ、地元から離れられて、姉が暮らす東京ではないところなら、どこでも良かった。

 「へえ。 なんとなくで、こんなところ来たんすね」

 こんなところ。その言葉には、卑下が含まれているような気がした。田村君は、ここが好きではないのだろうか。

 思いの外、会話が続いていることが意外だった。そして多分、この流れだと次は私が田村君に聞く番なのだろう。

 「……田村さんは、どうしてここに就職したんですか?」

 「俺は、実家から通える距離で探して、ここかなぁって感じで」

 「へぇ」

 ……あ、どうしよう。会話が、途切れる。別に途切れても良いはずなのに、私の相槌から途切れてしまうと思うと居心地が悪い。でも、特にこれと言って次の言葉が思い付かない。

 手を動かして仕事を進めたいのに、頭はそっちでいっぱいになって、手が止まる。喉元がむず痒い。