「どうかな」

 「は、はい。 あ、でも、匡さんは早く寝ないとじゃ……」

 「それがね、明日は和巳さんが美晴さんの定期検診に付き添いしたいからって休みになったんだ。 だから、大丈夫」

 そうなんですねと頷きながら、明日は土曜日だ、と思う。匡と休日が重なるのは、初めてだ。

 「どこか、行きたいお店はある?」

 行きたいお店……。突然の提案に、私は再び固まる。いつも1人だったから、外食なんて滅多にしたことがなくて付近の飲食店が咄嗟に思い浮かばない。

 「私、近くのお店あまり詳しくなくて……匡さんは?」

 「うーんとね、この前、和巳さんにお勧めのお店をいくつか教えて持ったんだ。 中華にイタリアン、定食屋とか、居酒屋とか」

 「和巳さんのお勧めなら、きっとどこも美味しいですね」

 和巳さんはhitotokiの店主で、恰幅が良くて小麦色の肌と溌剌とした笑顔が印象的な男性だ。趣味はジムと、休日に奥さんの美晴さんと外食をすることらしく、美味しいお店を見つけると匡に教えてくれるらしい。
 ただ、今は美晴さんは現在妊娠中で和巳さんは以前のように外食をすることが減ってしまったそう。hitotokiの求人は美晴さんの妊娠が分かり、パン屋の勤務時間に体調を合わせることが困難になったため、人員補充のため出したと、面接の時に聞いたと匡が言っていた。

 「伊都さんが帰ってきたら、その時の気分で決めようか」

 「はい」

 頷きながら、さっきまで仕事に行くのが酷く憂鬱だった気持ちが、少しだけ晴れやかになったことを自覚する。さっくりと歯切れの良いスコーンを頬張ると、ブルーベリーの甘酸っぱさが広がった。