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 私には、双子の姉がいました。

 一卵性双生児だったから、顔は瓜二つ。けれど、性格は真反対でした。姉の伊鈴は、柔和で素直。私は根暗で冷淡さがあり、食べ物の好みも、趣味も異なりました。

 双子なのに性格や好きなものが違うことが、周りの大人たちにも面白がられたし、私たちもお互いの価値観が違うことが幼いながらに不思議で、なんでも共有して、違いを理解し合った。私たちは、仲が良い姉妹でした。

 小学生になると、双子は珍しいからか同級生や上級生にからかわれることが増えました。わざと名前を呼び間違えられたり、お互いの靴を左右入れ替えられたり、お気に入りの鉛筆を盗られたり……。勿論私は腹が立ったので、根暗で陰湿な方法で彼らに仕返しをしました。靴の中にびしょびしょに濡れたティッシュを詰め込んだり、筆箱の鉛筆の芯を全部折ったり、偽のラブレターを送って夕方になるまで図書館の隅で一生訪れない相手を待たせたり……。

 けれど、姉は名前を私と間違えられても、内履きを入れ替えられても、鉛筆を盗られても、『みんな、暇なんだね』と笑い、私が仕返しをしたと知った時は『そんなことより、私と遊ぼうよ』と言いました。姉は決して怒らなかったし、姉とは正反対の行動をする私のことも決して責めなかった。

 私は、そんな姉のことがいつも心配でした。穏やかで柔和な性格で、まず人を疑ったりはしない。それを大多数の人は優しいと捉えるけれど、私は警戒心が薄くて自己主張が弱いと感じた。いじめられても怒らないのは、本当は嫌なのに気持ちを隠しているからか、それとも本当に、なんとも思っていないのか。いずれにしても、やはり私とは異なる。

 中学生になり、男の子からからかわれることはあってもくだらないいじめはなくなりました。それで安心したのも束の間、私は次第に自分の中にある感情に違和感を覚えました。

 姉とは入った部活も違い、学校の中にいても関わり合う時間が減ってお互いにそれぞれ異なる交友関係を作ったけれど、私の頭の中にはずっと姉がいました。今頃、姉は何をしているだろうか。そう考えて、時々廊下ですれ違ったり、姿を見かけたりするだけで嬉しくなって心が躍った。家に帰れば姉と一緒に過ごせる時間が至福だった。私はその感情が、“家族に向けるものとは異なるのでは”と少しずつ不安になりました。

 「その違和感が確信に変わったのは、姉に好きな人ができたと言われたときでした。私は頭が割れるくらいの衝撃が走って、数日発熱して寝込むくらいのショックを受けました。私は、姉を愛していました」