「……はは、まあ、こんなんで、途方に暮れてたんだ。もう、とても疲れちゃって。……僕の話は、これで終わり」

 匡は、ケホッと小さく咳をした。ゆっくり言葉を選びながら話していたから、喉が疲れてしまったのだろう。匡はどこか気まずそうに、親指の爪先で人差し指をカリカリと引っ掻く。

 「私……飲み物、買ってきます」

 「え?どこに」

 「すぐそこに、自販機があるので」

 匡が何か言おうとしたけれど、私は立ち上がって橋を来た方向へ戻る。橋の袂の自動販売機でペットボトルのお茶を2本買い、匡のもとに走る。そうしながら、戻ったら匡が居なかったらどうしようと思い、くたくたの足をどうにか力いっぱい蹴り上げた。

 匡は、座ったままそこに居た。私が戻るのを待っていたみたいに、こちらに顔を向けて私の姿が見えると控えめに微笑んだ。

 「わざわざ、ありがとう。いくらだった?」

 「いえ、大丈夫。大丈夫だから、飲んで」

 私は匡の隣に座り直し、お茶を飲む。私は酷く、喉が渇いていた。あまりに息が切れていると必死だと思われそうで、本当は空気を肺いっぱい吸い込みたいけれど、半分くらいに抑える。

 「……匡さんは、明良さんのどこが好きなんですか」

 「……全部」

 恥ずかしげもなく言う匡を、すごいなと思う。ただ、その全部を失った匡は今にも萎れてしまいそうで、私は彼が持つペットボトルを掴んだ。

 「わ、え、なに」

 「お茶、飲んでください」

 ペットボトルの蓋を開けて「はい、どうぞ」とお茶を飲むように促す。匡は目を丸くして、それから力が抜けたみたいな様子で少し笑って、ひとくちお茶を飲んだ。うん、美味しい、そう小さく呟いた横顔はなんだかとても幼い。

 「伊都さん、変わってるって言われたことありますか」

 「……私は、真面目であることが、取り柄くらいなものです」

  私も、もう一口お茶を飲んだ。冷たくて、体の芯まで冷えるようで、温かい方が良かったかなと思う。

 「伊都さんは、どうして今日が、嫌なの?」

  匡は手元に視線を落としていた。私も同じように、カサついた自分の指先を見る。

 「話したくない?」

 「……誰にも話したことがないことだから、上手く話せるか分かりません」

  でも、何かを話すと約束をしてしまった。今は、一体何時だろう。まだ、今日は終わらないだろうか。

 「僕の話も、上手くはなかったでしょう?」

  隣を見ると、匡と目が合った。そのどこか憂いを纏った視線は優しくて、私はそれが不意だった。

 匡から視線を外す。彼は、やはり綺麗だ。心のうちも素直で、純粋なのだと思う。そんな彼に、私の心のうちを知られるのは、怖いと思ってしまう。

 だけど、今日を終わらせたくない。

 「…………今日は…………」

 「うん」

 「……姉の命日なんです」