『匡さんが来てくれて、明良さん、嬉しそうでした』
彼女を見ると、どこか物悲しげに微笑んでいた。どこが、嬉しそうだったんだ。そんな風に思ってしまい、彼女の言葉をどう受け止めていいか分からず、僕は無愛想だと思いながらも何も言えなかった。
『……匡さんの知る明良さんは、どのような人ですか?』
彼女は、自分の手元に視線を落としていた。その左手の薬指には、シルバーリングがはめられていた。僕は彼女から視線を逸らす。ちょうど僕らの足元には、木漏れ日が射していた。
『……明良は……、どんなに辛いときでも、そっと希望の光を射してくれるような明るさがあって、あたたかくて……優しいです』
そんな明良を、傷付けてしまった。明良が辛いとき、僕は何をしてやれただろう。思い返せば、僕はいつも自分の事ばかりだった。明良が側に居てくれたから、そうできたのだ。
それが、あまりにも当たり前になりすぎていた。
『私といる時の明良さんは、とても、物静かなんですよ』
彼女は、視線を落としたまま続けた。
『……初めてのデートの帰りに、海を見たんです。夕焼けが海一面に映り込んで、綺麗でした。そのとき、彼は、私に“何色に見える?”って訊いてきたんです。私がオレンジ色と答えたら、彼は、“うん、そうだよね”とだけ言いました。そんな質問に私は何の気にも止めなかったけれど、彼からあなたの事を聞いて絵を見た時、彼はあの時、あなたのことを思い出していたんだと思いました』
その声が、僅かに震える。けれど、彼女は続けた。
『……それからは、不安で仕方なかった。匡さんのご病気のことは、調べて、理解したつもりでいます。優しいあの人が、きっと匡さんの支えになっていたことも……お互いにきっとそういう存在だったのだろうと、想像しました。あんなに綺麗な景色を見て、彼が一番に思い出す存在が、あなただったから』
僕は、膝の上で硬く結んだ自分の手を見つめた。
『……いま、支えがなくなった明良さんを、私は支えていきたい。私じゃ力不足かもしれないけれど、明良さんが大切にしたいものを私も守りたい。頑張りたいんです』
僕は、泣きそうだった。
彼女が強くあろうとしていることが、そうできることが、羨ましかった。



