来来来世の恋人へ

第一話

〈朝の通学路〉主人公の敦田満月(あつたみつき)が通学路を走っている。満月は寮住まいの高校二年生。小柄で可愛らしく、純粋な少年である。

満月(モノローグ)   遅刻だ、遅刻~!

〇遅刻しそうだというのに、満月は困っている人たちを見かけると助けてあげずにいられない。道に迷った背の高い男性(マスクと眼鏡を掛け、黒い帽子を被っている)に声を掛け、おばあさんの手を引いて横断歩道を渡り、小学生がぶちまけたドングリを一緒に拾って、塀の上から降りられなくなった子猫を降ろして母猫に返してあげる。人助けが終わった満月はまた通学路を走る。

満月M   あー! こんなとき、テレポーテーションできたらいいのに!


〈昨夜・眠っている満月の回想〉

満月M   僕は昔から、いわゆるオカルトといわれる話が好きだった。今の人類が繁栄する前にあった、核で滅びた古代文明。古文書に残る、海に沈んだ古代都市。僕達を見守り、滅亡の危機から人知れず救ってくれている宇宙人。この世の過去現在未来、全てを記したアカシックレコード。火星にはかつて生物がいたし、月の裏側には偉い人たちが極秘で作った基地がある。守護霊はきっといつも僕を見守っていてくれていて、パラレルワールドでは僕とは違う僕が生きている。僕はそういう話が大好きで、きっと全部本当だと思ってるんだ。

〇繁栄する古代文明・津波に襲われる古代都市・宇宙人・アカシックレコード・火星と月・守護霊などのイラストが描かれ、満月が眠っている姿に続く。イヤフォンを付けて、枕元にはスマートフォン。

満月M   そんな僕が、小さな頃からずっと、一番に興味を惹かれているのは――


〈放課後・高校の教室〉満月が、友人の有明(ありあけ)朏島(はいじま)と三人で話しをしている。有明は明るく快活で、朏島は表情に乏しく無口な少年である。

有明    前世~?
朏島    ……

〇有明は胡乱な物を見る目で満月を見る。朏島は無表情で、黙って紙パックのジュースを飲んでいる。話を聞いてもらいたくて、満月はキラキラした瞳で二人を見て頷く。

満月    そう、前世。
有明    お前、またなんか胡散臭いもんにハマってんの?
満月    胡散臭くないよ! 世界中に証人がいるんだ。子どもが生まれる前の出来事を語ったり、大人が前世を催眠術で思い出したり。前世の記憶を頼りに人を訪ねて行って、前世の家族に会った人もいるんだよ。
有明    へぇー(めちゃめちゃ胡散臭い……)。
朏島    ……

〇有明は顔を引きつらせ、朏島は無表情にジュースを吸っている。満月はキラキラと、興奮気味に前世の話を続ける。

満月    漫画やドラマでもあるでしょ? 運命の恋人の話。二人は何度生まれ変わっても、必ず出会ってまた相手のことを好きになるんだ。すっごく素敵だと思わない!? そういうの!
有明    あー……(適当な相槌)
朏島    ……
満月    僕、本当にあると思うんだ。みんな生まれ変わって、その度にいろんな人生を歩んでるんだよ。いいよねー、そういうの。

〇満月はひとりしみじみと頷く。有明が胡乱な眼差しで満月を見る。

有明    で、お前の前世はなんなの?
満月    えっ。

痛いところを突かれて、満月は一瞬ギクリと怯む。

有明    そこまで言うんだから、満月にもあるんだろ? 「素敵な前世」。
満月    うっ。――それが……全然分かんないんだよね。
有明    なんだよ。
朏島    ……

〇満月は肩を落とし、有明は呆れる。朏島は無表情にジュースを吸い続ける。

満月    僕だって知りたくていろいろ試してるんだけど、どうやったって分からなくて。いろいろ本を読んで書いてあることをやってみたり、インターネットの動画を使って誘導瞑想とかもやってみてるんだけど……、百パーセント、途中で寝ちゃって……

◯満月の脳裏に、前世関連の本を積み上げて一生懸命読んでいる自分の姿や、スマートフォンで動画を流しながらイヤフォンを付けて、スヤスヤと寝ている自分の姿が思い浮かぶ。

有明    最近、寝てるときなんか聞いてると思ったら、それか。お前、そんなことしてるから寝坊して今朝遅刻したんだろ。
満月    うぐっ!
朏島    起こしてやればよかったじゃん。
有明    無理だよ。俺、朝練で先に出たもん。

〇三人が高校の寮に住んでおり、満月と有明は同室であることを注訳で入れる。

朏島    レギュラーになれたの?
有明    まだ。見てろよ! すぐだから!

〇そのまま話し始めた二人を見ながら、満月はひとり考える。

満月M   前世のこと、ちゃんと覚えてる人もいるみたいなのに、なんで僕はダメなんだろう。やっぱり、僕なんて前世でも地味で平凡な存在で、特別なことなんてなんにも無かったのかな。だから何も思い出せないんだろうか。

〇満月は考え込み、落ち込んでしゅんとする。二人はその様子に気が付いて、有明は「どうしたことか」と目をパチパチさせ、朏島は満月を見て口を開く。

朏島    まあ……そういうのに憧れる気持ち、分からんでも無いけどな。
有明    なっ!?
満月    でしょう!?

〇朏島の言葉に、満月は顔をパアッと晴れさせ、有明はたじろぐ。朏島は満月を見て優しく笑う。

朏島    俺だって考えたりするよ。前世、別の人生を歩んでたことがあるのかなぁ……とか、あったとしたらそれってどんな人生なんだろう……とか。
満月    でしょうでしょう!
朏島    まあ何にも覚えてないし、俺は満月ほど、真剣に知りたいわけじゃないけどね。でも、運命の人がもしいるならどんな人か気になるよね。
満月    うんうん。
朏島    そういう漫画とかも面白いし。
満月    そうだよね!
有明    ……

〇盛り上がる二人に置いて行かれた気持ちになって、有明は慌てて二人に割って入る。

有明    で、でも仮にだ。運命の人とやらがいたとして、可愛いとは限らんぞー?
満月    えっ。

〇有明の言葉に満月はドキリとする。動揺した満月を見て有明はニヤニヤする。

有明    どーすんの。運命の相手とやらが美人の女の子じゃなかったら。
満月    うーん。運命の人は別に女の子じゃなくてもいいかな。
有明    えっ。

〇満月があっけらかんと言って、今度は有明が動揺する。

有明    美人じゃなくてもいいって言うかと思ったら……そっち……? 女じゃなくてもいいんだ……。え、お前って恋人が男でもいい人?

〇「俺はちょっと無理かも……」と、有明は引いた顔をする。満月は慌てて否定する。

満月    そ、そうじゃなくて! 運命の人っていうのは恋人じゃなくてもいいんだよ。お話の中だと恋人が多いけどさ。背中を預けられるバディとか、生まれた時から一緒の大親友とか、深い絆で結ばれた王子様と彼専属の騎士とか、運命の相手はそういうのでもいいの。

有明    ほおー。
朏島    ……

〇お互いに剣を持ち背中を預けて戦う漢服姿の青年二人。自転車に二人乗りして笑い合う、大正時代頃の学生服姿の男の子二人。西洋の幼い王子様と、彼を背中に庇うカッコいい騎士の男性。満月はいろいろなソウルメイトの形を思い浮かべながら二人に説明する。

満月    そういう相手、僕にもいたらいいのになって思うんだ。いてほしい。――僕、前世を思い出して、運命の相手を絶対に見つける!
有明    ……お前、絶対将来悪い奴に騙されて、絵とか水とか売られるよな。
満月    えぇ!?
有明    まーまー、そのときはちゃんとおにーさんたちが助けてやるから。なんでも報告するんだぞ。

〇有明が満月の頭をガシガシと撫でて、満月は身を竦める。

満月    わっ!
朏島    たち?(俺も入ってんの?)

〇カメラが少し離れたところに移る。教室の外、廊下で話を聞いている檮木朔(うつきさく)。冷たい顔をしているように見えて、少し怪しい。頬に目立つ大きな傷がある。

有明の声  帰ろうぜー
満月の声  う、うん…!
有明の声  今日の日替わりなんだろうなー
檮木    ……


〈夜の寮・満月と有明の自室〉有明は二段ベッドの上に寝転んで、スマートフォンで動画を見ている。満月はベッドに凭れクッションを抱えている。満月は有明の言葉を思い出す。

有明    『美人じゃなくてもいいって言うかと思ったら……』
満月M   正直なところ、運命の相手が綺麗な人だったらいいなとは思ってる(勿論、違っててもいいんだけど……)。だって、物語の中の運命の相手って大体美系だし……。だからちょっとやっぱり、そういうのに憧れるよね(自分の容姿を棚に上げといてなんだけどっ!)。

〇一人で照れて心の中で何かに言い訳していると、いきなりガチャリとドアが空いて朏島が顔を覗かせる。

朏島    メシ行こ。
満月    う、うん!
有明    おう。


〈寮の食堂〉小さな人だかりができている。不思議に思い、近くで我関せず夕食を食べていた友人A・Bに有明が声を掛ける。

有明    何? アレ。
友人A   転校生だって。
満月    転校生?
友人A   お父さんが海外転勤になって、急遽。今夜から寮入ることになったらしい。学校は明日からだって。
有明    ふーん。

〇人だかりの中心にいる檮木。生徒たちに囲まれている。檮木は明らかに他の人たちより等身が高く、格好良くてキラキラしている。

友人B   表のバイク見た? あいつのだって。
有明    バイク!?
友人B   急な引っ越しで置くところ無くて、特別なんだって。いいよなー。
有明    へぇぇー。何それ、羨ましい。

〇満月は檮木のカッコよさに目を奪われ、有明たちの話しは聞いていない。

満月M   かっこいい人――。いいな、ああいう人が運命の相手だったらいいのに。
有明    何かやたらキラキラしてんな。
朏島    ……

〇三人で檮木を見ていると、檮木が満月たちの方を見て、ぱぁっと顔を明るくする。その視線に気が付く三人。

満月    どっちかの友達?
有明    いや?
朏島    俺も知らん。

〇檮木は三人の方に駆け寄ってきて、ガバリと満月の手を取る。

檮木    やっと会えた……!
満月    えっ……?

〇檮木はとても懐かしそうな、切なそうな顔で満月を見つめる。満月はドキリとする。朏島は無表情のまま、有明と周りの皆は目を丸くしている。

満月    僕のこと、分かるの……?
檮木    分かるよ! 当たり前じゃん。ずっと探してた……、会いたかったんだ。

〇檮木は満月の耳元で囁く。

檮木    百年ぶりだね……
満月    えっ……
檮木    約束したでしょう? 生まれ変わってもまた会おうって。

〇ぽかんとする満月。檮木はキラキラした瞳のままで満月を見つめている。満月はハッとする。

満月    あっ、えーと、ちょっと……そ、外で話そう!

〇満月は周りの目を気にして、檮木の手を引き食堂を出る。檮木の手を引いて走りながら、興奮にドキドキしている。

満月M   嘘、嘘だ。本当に!? こんなにカッコいい人が、僕と前世からの知り合いなの!? もしかして、もしかして運命の人――!?

〇満月の脳裏に、これまで思い浮かべたバディや友達同士、王子様と騎士などが自分と檮木の姿で想像される。満月の想像の中で、寮の廊下を檮木の手を引いて走っている自分が騎士の姿に、檮木が王子様の姿に変わる。


〈寮の中庭〉満月と檮木はベンチに座る。檮木は穏やかに落ち着いていて、満月は興奮にドキドキしている。

満月M   えーと、えーと、どうしよう。一体何から聞いたら――
檮木    今の名前を聞いてもいい?
満月    い、今の!? ――あの、えーと、敦田満月です。
檮木    満月、か。俺は檮木。檮木朔だよ。
満月    う、檮木君。
檮木    朔って呼んで。
満月    あ、う、うん。――朔君は……、えーと、転校生なんだ?
檮木    うん、親の仕事の都合で。登校は明日からなんだけど。
満月    そうなんだ……
満月M   どうしよう、何を聞いたらいいんだろう。さっきの「百年ぶり」っていうのは、「生まれ変わっても」っていうのは、そういうことだよね!?
檮木    満月……って、呼んでいいのかな。
満月    う、うん。
檮木    驚いたよ。ずっと探してはいたんだけど、でも、こんなところで会えると思わなかった。
満月    さ、朔くん……。それ……、それって……探してたって……前世からって……こと……?

〇探るように恐る恐る言った満月に、檮木は当然のように微笑んで頷く。

檮木    勿論そうだよ。
満月    やっぱり……! 本当に……! ね、ねぇ、僕たちって前世ではどんな関係だったの……?

〇檮木の返事にホッとしながらも、興奮を抑えきれずに聞く満月。幼なじみか、バディか、王子様と騎士か……。二人のいろいろな姿を想像して、満月は目を輝かせる。檮木は切なそうに笑う。

檮木    俺たちは前世の前世のそのまた前世から、どの人生でもいつも恋人同士だったでしょ? ――ねぇ、満月はどうして、今世は男の子に生まれてきてしまったの?
満月    え……?

〇ぽかんとする満月。愛おしそうに、切なそうに、キラキラと満月を見つめ続ける檮木。

満月M   えええええー!!!!