クロとシロと、時々ギン

 突然の出来事に、一瞬フリーズする。押し込まれた唐揚げをモグモグと咀しゃくしながら、私はシロ先輩を見つめた。

(ちょっと待って。これは、俗にいう「アーン」というやつでは?)

 何気ないシロ先輩の行動に、私の心臓が早鐘を打ち始めた。頬が赤くなっていくのを感じる。

 私の変化など気が付かないのか、シロ先輩は、何事もなかったかのように素知らぬ顔で自分の食事を再開し始めた。

 そんなシロ先輩の態度に、私はなんだか釈然としない。

(少しくらい意識してくれたっていいのに……)

 ドキドキしているのが自分だけだというのが悔しくて仕方がない。だから、私もシロ先輩の口元に唐揚げを差し出した。

「何だよ?」

 怪しげに見返すシロ先輩に、私はニヤッと笑ってみせる。

「お返しです」

 シロ先輩は、驚いたように目を大きく見開いた後、フッと表情を和らげた。そんなシロ先輩の笑顔にドキリとする。

 シロ先輩は、そのまま私の差し出す唐揚げを大口を開けてパクリと食べる。その仕草があまりにも自然すぎて、自分から仕掛けたくせに、私は何も言えずに固まってしまった。そんな私の目の前で、シロ先輩は何食わぬ顔をして口を動かし続けている。

(ずるい)

 ドキドキと高鳴る胸を押さえながら、恨めしげにシロ先輩を見つめていれば、シロ先輩が余裕綽々な態度でふっと笑った。

(これは、完全に遊ばれている)

 私は思わずムキになった。次から次へと、シロ先輩の口の中に唐揚げを放り込んでいく。シロ先輩も、負けじとばかりに反撃してきた。

 互いに競うようにして、相手の口に料理を運ぶ。傍から見たら、まるで餌付けをしているように見えるかもしれない。だけど、私たちにとっては至極真剣な戦いだ。

 しばらくすると、流石にお互いに疲れてきた。箸の動きが鈍くなる。

「もう終わりにするぞ」

 先に音を上げたのは、シロ先輩だった。私は勝ち誇った笑みを浮かべると、満足感に浸りながら、ビールをくいっと飲んだ。

(あぁ、美味しい)

 幸せを噛みしめるように、目を閉じてほうっと息を吐く。その時、隣に座る萌乃が可笑しそうにクスリと笑みを漏らした。

「お二人はさっきまでギクシャクとしていたのに、もうすっかり元通りですね」

 そう言って笑う萌乃に、私とシロ先輩は顔を見合わせた。それから、ハッと我に返る。

(ここは居酒屋。他の客の目がある。一体何をやってるのよ、私! )

 今更ながら、自分がした行動に恥ずかしさが込み上げてくる。穴があったら入りたい。