クロとシロと、時々ギン

 萌乃の提案を聞いた白谷吟は、少し思案してから口を開く。

「なるほど。なかなか良い案だね」

 白谷吟の反応を見て、萌乃は嬉しそうに頬を緩める。白谷吟はホワイトボードに文字を書き込むと、くるりと振り返った。

「矢城さんは何かある?」

 白谷吟は私に水を向ける。私は顎に手を当てながら思考を巡らせた。萌乃の提案を否定するわけではないのだが、私はどうしても気になることがあった。

「萌ちゃんの案はすごくいいと思います。ただ、ゲストの中には、苦手であったり、アレルギーであったりと、その食材を食べられない人が出る可能性が有ります。一つの食材をメインとして全ての料理に使う場合、そのゲストは全ての料理を口にできないことになりませんか?」

 私の指摘を聞いて、萌乃はハッとした表情を浮かべる。進行役の白谷吟は納得したように小さく首肯した。

「確かに、その通りだね。じゃあ、やっぱり、メイン食材を決めるというのは難しいのかな」

 白谷吟が呟くと、萌乃は申し訳なさそうに眉尻を下げた。しかし、すぐにシロ先輩が手を挙げる。

「俺も萩田の案はいいと思う。クロの指摘はもっともだが、今回は低価格プランなんだ。そもそもゲストの人数は然程多くはないだろう。ダメな食材の事前把握はそんなに難しいことじゃないんじゃないか」

 シロ先輩の言葉を聞き、萌乃はパッと明るい笑みを浮かべた。

 なるほど。言われてみれば確かにそうだ。低価格プランだからこそ、今回の案は活かせるのかもしれない。

「把握可能であれば、私もこの案には全面的に賛成です。あ、それから、メインテーマの食材は新郎新婦に決めてもらうというのはどうでしょう? 食事に対するゲストの満足度向上対策も必要ですけど、やはり、主役のお二人が満足いくプランであるべきだと思うので」

 私が自分の意見を言うと、シロ先輩は満足げに微笑んだ。もしかして、どうやって私を論破するか考えを巡らせていたのだろうか。そんなシロ先輩の表情に白谷吟は呆れ顔を見せながら、ホワイトボードに新たにペンを走らせる。

 そして、再び私たちの方を見た。そこに書かれた文字は、先程の萌乃の提案から大きく逸脱したものではないが、とても魅力的で、良いプランだと思えるものだった。

 クライアントに提案する形が大方決まると、室内の空気が弛緩していく。私たちは持ち込んだ飲み物を飲みながら、会話は次第に雑談へと変わっていった。

「明日花さんだったら、メイン食材何にします?」