白谷吟。彼は本当にすごい人だと思う。パーフェクトな上に、面倒見が良くて、頼りがいがある。仕事が丁寧で、いつも冷静沈着。その上、ユーモアがあって優しい。非の打ち所がない。こんな人が、同じ会社にいるなんて奇跡だ。
そんなことをぼんやりと思いながら、少し先を歩く白谷吟の背中をじっと見つめていると、白谷吟の隣を歩いていたシロ先輩が不意に振り返った。目が合うと、シロ先輩はニヤリと笑って口パクで何かを伝えてきた。私には何を言っているのかわからなかったけれど、その表情から察して、おそらく私の悪口を言っていたに違いない。私は思わずムッとした。
そんな私の様子を見たシロ先輩は、さらにニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。私はプイッと顔を逸らす。
まったく。シロ先輩ときたら、いつもこうだ。
シロ先輩の態度に不満を覚えつつ、私は顔を戻す。その時、隣を歩いているはずの萌乃の姿が視界にないことに気が付いた。
慌てて振り向いてみると、萌乃は自動販売機の前で立ち止まり、真剣な眼差しで自販機を睨んでいる。その横顔を見ていて、私はあることを思い出す。それは、昨日、白谷吟がコーヒーを差し入れしてくれたことだ。私はゆっくりと萌乃へ近付いていく。
「白谷先輩に、昨日のお返し?」
私が声をかけると、萌乃がパッとこちらを振り向いた。そして、恥ずかしそうに小さく首を縦に振る。萌乃の手の中には、白谷吟がいつも飲んでいる缶コーヒーと、萌乃が好んで飲んでいる天然水のペットボトルがあった。
なるほどね。萌乃らしいな。私が微笑ましく思っていると、萌乃が不安げな目を向ける。
「明日花さん、八木さんは何がお好きですか?」
「え?」
「白谷さんがいつもこのメーカーのコーヒーを飲まれていることは知っているんですけど、八木さんっていつも飲んでいるものがバラバラで……どれが良いかわからないんですよ〜」
萌乃はそう言いながら眉根を寄せた。私はつい苦笑いしてしまう。確かに、シロ先輩は様々な種類のものを好んで飲む。コーヒーはもちろんのこと、紅茶やお茶、炭酸飲料やスポーツドリンクまで。どれもこれも美味しそうに飲み干す。
「あ〜、シロ先輩は何でもいいと思うよ」
「でも……」
「ってか、萌ちゃん、白谷先輩の分だけじゃなくてシロ先輩の分も買うつもりなの?」
「はい! あ、もちろん明日花さんの分も! 明日花さんは何がいいですか?」
萌乃は嬉々として言う。萌乃はもともと気遣いのできる子だ。
そんなことをぼんやりと思いながら、少し先を歩く白谷吟の背中をじっと見つめていると、白谷吟の隣を歩いていたシロ先輩が不意に振り返った。目が合うと、シロ先輩はニヤリと笑って口パクで何かを伝えてきた。私には何を言っているのかわからなかったけれど、その表情から察して、おそらく私の悪口を言っていたに違いない。私は思わずムッとした。
そんな私の様子を見たシロ先輩は、さらにニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。私はプイッと顔を逸らす。
まったく。シロ先輩ときたら、いつもこうだ。
シロ先輩の態度に不満を覚えつつ、私は顔を戻す。その時、隣を歩いているはずの萌乃の姿が視界にないことに気が付いた。
慌てて振り向いてみると、萌乃は自動販売機の前で立ち止まり、真剣な眼差しで自販機を睨んでいる。その横顔を見ていて、私はあることを思い出す。それは、昨日、白谷吟がコーヒーを差し入れしてくれたことだ。私はゆっくりと萌乃へ近付いていく。
「白谷先輩に、昨日のお返し?」
私が声をかけると、萌乃がパッとこちらを振り向いた。そして、恥ずかしそうに小さく首を縦に振る。萌乃の手の中には、白谷吟がいつも飲んでいる缶コーヒーと、萌乃が好んで飲んでいる天然水のペットボトルがあった。
なるほどね。萌乃らしいな。私が微笑ましく思っていると、萌乃が不安げな目を向ける。
「明日花さん、八木さんは何がお好きですか?」
「え?」
「白谷さんがいつもこのメーカーのコーヒーを飲まれていることは知っているんですけど、八木さんっていつも飲んでいるものがバラバラで……どれが良いかわからないんですよ〜」
萌乃はそう言いながら眉根を寄せた。私はつい苦笑いしてしまう。確かに、シロ先輩は様々な種類のものを好んで飲む。コーヒーはもちろんのこと、紅茶やお茶、炭酸飲料やスポーツドリンクまで。どれもこれも美味しそうに飲み干す。
「あ〜、シロ先輩は何でもいいと思うよ」
「でも……」
「ってか、萌ちゃん、白谷先輩の分だけじゃなくてシロ先輩の分も買うつもりなの?」
「はい! あ、もちろん明日花さんの分も! 明日花さんは何がいいですか?」
萌乃は嬉々として言う。萌乃はもともと気遣いのできる子だ。



