クロとシロと、時々ギン

 萌乃の質問に答えたのは、私ではなく白谷吟だった。

「萩田さん。矢城さんはね、仕事に真摯に向き合っているから、これからの仕事の進め方に対して悩んでいるんだよ」

 白谷吟の言葉を聞いても、萌乃は合点がいかなかったのか、首を捻る。

「どうしてですか? フィードバックは纏めてで良いと言われたんですよね? あ、もしかして、もう次の企画を考えているとかですか?」

 すると、シロ先輩がゆっくりと息を吐いた。

「クロはそんなに器用な奴じゃないからな。次の企画については、まだ何も考えてないだろ?」

 図星を突かれた私は、つい視線を逸らす。確かに、私は目の前にある仕事を一つずつこなしていくことだけで精一杯だ。とてもじゃないが、次の企画について考える余裕なんてない。

 そんな私の様子を見た白谷吟がクスッと笑う。

「あのね萩田さん。僕たちの仕事は、言われたことを言われたままにやっていたらダメなんだ。今回で言うと、クライアントがフィードバックは後で良いと言ったからと言って、本当にその通り動いていたら、次のフェーズに移行出来ないでしょ? だから、僕らは次へ動けるようにするために、本来なら後日で良かった作業を、今してる。正直、今の僕らには時間が足りないんだ。矢城さんはそのことが分かってるから、ちょっと難しい顔をしていたのかもね」

 白谷吟の説明を聞いた萌乃が、なるほどと納得する。なんだか私の心境を真面目に説明され、真面目に納得されると、焦ったり、苛立ったりしている自分が情けなく思えてきた。

 シロ先輩や白谷吟からは、焦りが感じられない。多少困った顔は見せたものの、今はもう平静を保っている。それに対して、自分はどうだ。仕事に対する不平と不満でいっぱいになるなんて、情け無い。

 私が反省をしていると、隣に座っているシロ先輩がポンと肩に手を乗せた。シロ先輩へ目を向けると、先輩は真っ直ぐ私を見る。

「クロ、肩の力抜けよ。なんとかなるから」

 シロ先輩のその言葉で、ふっと気持ちが軽くなる。私は大きく深呼吸をした。

「あ〜、なんか、すみません。私だけ焦っちゃって」

 私が謝ると、シロ先輩はニヤリと笑う。

「クロらしくないな。いつもみたいに緩くやれよ」

 一瞬、シロ先輩の言っていることがわからなくて言葉に詰まる。シロ先輩は笑みを浮かべたままさらに言う。

「無理するなんて、お前らしくないぞ」

 シロ先輩の言葉にカチンときた。

「なっ……! 私は、いつだって真剣に仕事してますよ!」