仕方がないので、私はもう少し萌乃の悩みに付き合うことにする。

「萌ちゃんは、白谷先輩に仕事で迷惑をかけて申し訳なく思っているのよね?」
「はい。そうです」

 私の問いかけに、萌乃は小さく頷く。

「だったら、同じミスをして迷惑をかけないように、仕事を覚えることが一番いいと私は思うのだけれど、違うかな?」

 諭すように萌乃に語り掛ければ、萌乃は小さく同意の意を示す。

「それはそうだと思います。それは分かってはいるのです。でも……」
「でも?」

 萌乃はじれったそうに顔を少し歪め、意を決したように声を張った。

「私は、白谷さんのお力になりたいんです」

 そんな萌乃に少々気圧されつつ、私も何とか声を出す。

「う、うん。だからね、先輩の力になるためには、まず、仕事を覚えてミスをしないように成長して……」
「そんないつになるか分からない成長を待ってはいられません。それに、私、ポンコツなんです。そんな私が成長するなんて、奇跡に等しいです」
「え? ポ、ポンコツ……?」

 萌乃の自身を否定する物言いに、私が思わずポカンとしている間にも、ヒートアップした萌乃の口からは、次々と自分を否定する言葉が溢れ出す。

「私なんて、物覚えも悪いし、要領も良くないし、気が利かないし、すぐ目の前の事でいっぱいいっぱいになっちゃうし」
「え? え? ちょ、ちょっと待って萌ちゃん」

 私は、思わず萌乃の手を取る。興奮しているのか、萌乃の手は、小刻みに震えていた。その震える手を私は両手で優しく包んだ。

「ねぇ。萌ちゃん。誰かに何か言われたの?」
「……いえ」

 萌乃は、私に包まれた自身の手を凝視したまま、小さく頭を振った。

「じゃあ、どうして自分をそんなにひどく言うの?」
「……だって、本当の事なんです。昔から私、物覚え悪いし、要領も悪いし」
「ああ。うん、わかったから。もうそれ以上は」

 慌てて彼女の手を軽く叩きながら、私は彼女の言葉を止める。しかし、興奮が収まらなかったのか、萌乃は、そのまま、言葉を続けた。

「そんなだから、私、白谷さんに申し訳なくて。いつもいつも彼の足を引っ張っている自分が嫌なんです。白谷さんのお力になりたいんです。白谷さんを助けたいんです。白谷さんに頼って欲しいんです。だって、私、私……」
「萌ちゃん。一旦落ち着こ。ね」

 ヒートアップしている萌乃に声をかけるが、萌乃は勢いのままに言い切る。

「白谷さんが好きなんです!」

 萌乃の突然の告白が、小会議室に響き渡った。