「卒業して、それぞれ環境が変わったんだ。そうすれば、互いに共感できることなんて、学生の頃よりも少なくなるはず。それって、つまり、そいつらと合う話題が減ったって事だろ?」
「まぁ、そうですかね」

 シロ先輩の言葉に曖昧に相槌を打つ。

 しかし、シロ先輩の指摘は、間違ってはいなかった。学生の頃の友人には、自分から連絡を取ることはなくとも、たまに、近況報告会と称して、突然SNSが発信されて来たりすることがある。

 仕事で嫌なことがあった。彼氏と喧嘩した。友人のこんな発言が納得出来ない。

 話題は、本当に他愛もないことばかりだ。

 自分にも日常で起こり得るであろうことばかりの話題。それなのに、どこか共感できない話題ばかり。

「人見知りのお前が、心理的に距離の空いた相手と上手くやれるわけないだろ。そんなのは、お前にとって、ストレスでしかないんだ。無理して付き合おうとなんかするな」

 それだけ言い放つと、シロ先輩は、再び箸を手に食事を再開した。

 シロ先輩の言っていることは分かるし、先輩に指摘されたように、人との距離の掴み方が苦手な私は、できることなら、付き合わなくて良い相手とは付き合いたくない。

「でも、それでいいんでしょうか? 陰口とか言われたりしません? 付き合いが悪くなったとか……」

 シロ先輩の意見に全力で同意したいくせに、私は、それまでの繋がりを絶つ勇気もなくて、不安げな声を出してしまう。

 そんな私に、シロ先輩は、行儀悪くビシリと箸を突き付けてきた。

「それ! 俺は、女子のそういう感じが嫌なんだ」
「そういう感じとは?」

 先輩の意図するところが分からず、思わず首を傾げてしまう。

「大体、群れて騒いでる女子に限って、その場にいない奴の陰口を言うだろ? しかも、こういう公共の場とかでもお構いなしの大声で。こっちは、そんなこと聞きたくもないのに、嫌でも耳に入ってくる。そういうのが俺は嫌なんだよ」

 心底嫌そうに顔を顰めているシロ先輩の言わんとしていることは何となくわかる。でもそれは、人が集まれば必然的に起こり得る話題ではないだろうか。

「まぁ、公共の場では、周りに配慮して話してほしいとかは思いますけど、やっぱり、その場にいない人の話題になるのって仕方なくないですか? 居ないから、どうしたんだろうと話題にのぼってしまうわけで……、そこから話題が広がったりしますし……」
「だからって、その場にいない奴をネタに盛り上がるのは、おかしいだろ?」