「確かに、あの子たちのように、はしゃぐ歳ではないですね」

 運ばれてきた品に箸をつけながら、私は納得の言葉を零した。

 学生の頃は、常に同性の友達と群れ、何がそんなにおかしいのかと言うほどにキャッキャッと話していたものだが、言われてみれば、社会人になってからは、そんな風に誰かと話をすることはなくなった。

 よく言えば、社会人になり、それなりに落ち着いたということなのだが、それはそれで、なんだか、少し寂しいような気もする。

 でも、だからと言って、学生に戻りたいかと言えば、そう言うわけではない。当時、常に一緒にいた友人たちの顔を思い浮かべてみたが、今の自分が彼女たちとワイワイと話をしている姿が、どうにもしっくりこない。

 今だって、スマホの連絡先には彼女たちの名前が残されている。でも、その中で、一体何人の人と連絡を取り合っているだろうか。何人の近況を知っているだろうか。

 学校を卒業するたびに、交友関係はリセットされる。私は、いまさらながら、そのことに思い至る。

「あの子たちの友情って、どのくらい続くんでしょうね?」

 ポツリとつぶやいた私の言葉に、シロ先輩は、訝しそうな顔を見せた。

「なんだ? 突然」
「いえ、昔は私も、彼女たちみたいに友人とキャッキャッとしてたはずなんですよ。でも、よくよく考えてみたら、学生の頃の友人とは、いつの間にか疎遠になっていたなぁって……」
「別に良くね? 無理して付き合い続ける意味なんてないだろ」

 シロ先輩は、ケロリとした顔でそんなことを言う。

「まぁ、そうなんですけど……なんか、卒業したら、それで縁が切れるって、そもそも友達じゃなかったのかなぁって……。ってか、そんなこと言いつつ、私自身、自分から連絡取るわけじゃないんですけどね」

 苦笑いを浮かべる私を見て、シロ先輩は、しばらくの間無言で私を見つめていたが、そっと箸を置くと口を開いた。

「クロは、その昔の友人たちと仲良くしたいのか?」
「え? いえ。そういうわけでは……」

 シロ先輩の質問の意図が分からず、私は小首を傾げる。

「だよな。俺の知る限り、クロは、隠れ人見知りだ。表面上は他人と上手くやっているけれど、それは、当たり障りのない部分で、自分の内面を相手に見せるまでには、かなりの時間を要する」
「……えっ……まぁ、そう……かも……」

 シロ先輩の私に対する分析力に、思わず目を見張る。今まで、誰にも指摘されたことはなかったが、それは、的を射ていた。