結婚か。私はぼんやりと考えた。

 高校を卒業してから、理沙とはほとんど会う機会はなかった。たまに連絡がきていたが、それも二年に一回程度だ。最後に会ったのは、確か三年程前。就職が決まった時に、みんなで集まって飲んだ時のはず。

 懐かしいなとは思ったが、それ以上の気持ちは湧き上がらない。むしろ、面倒な物が届いたなとすら思ってしまう。

 理沙とはこのまま連絡を取らず、自然と繋がりが切れるのだろうと思っていたから。正直、気が重い。

 ふと、窓の外に目をやると、どんよりとした雪雲が空を覆っていた。まるで今の自分の心の中みたいだなと思いながら、再び手の中の封書を見る。

「……どうしようかな」

 ぽつりと呟く。

 本当にどうしたらいいのかわからない。とりあえず、返事は保留にしておくか。

 私は招待状を鞄に押し込んだ。

 鬱々とした気分でマグカップに口をつける。すっかり冷めてしまったお茶が喉をスッと冷やした。その冷たさにキュッと体を縮めた、その時だった。

 スマホが鳴った。画面を見ると、そこには珍しい人からの短いメッセージが表示されていた。

“突然だけど、今日、ランチでもどお?”

 メッセージの送り主は寺田由香里。会社の同期の中で一番親しくしている子だ。親しくと言っても、経理課に所属する彼女とは、部署が違うこともあってなかなか会う事はない。だが、彼女は時折ふと思い出したように私に連絡をしてくる。

 明るくてサバサバしており、女子特有の気を遣った付き合いをしなくて良い。そんな距離感が私にはちょうど良い。彼女と話をするのは気が楽だった。だから、彼女からの誘いには、なるべく応えるようにしていた。

 私はすぐに返信をする。

“いいよ。ちょうど暇してたところ。でも、今、実家だから、ちょっと遅めのランチでもいい?”

 送信ボタンを押すと、すぐに既読マークがついた。そして、そのすぐ後に、「OK!」と可愛いキャラクターのスタンプが送られてくる。その様子に思わず笑みが零れた。

 相変わらず、テンションが高そうだ。そう思いながら、マグカップの中身を飲み干すと、私は荷物を手にした。

「あら? もう帰るの?」

 私の動きに気がついた母がキッチンから出て来た。私は立ち止まらずに答える。

「うん。友達と約束があるから」
「そう……。あ、これ持っていって」

 母はそう言って、小さな紙袋を差し出してきた。受け取ると、微かに甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「何?」

 私が尋ねると、母は微笑んで答えた。